繋がる声—未来の約束
学園の夜。
月明かりが照らし、涼しい風が木々を揺らしていた。
ミナは手元の小さな金属片をじっと見つめていた。
「……そういえば」
ふっと思い出したように声を漏らす。
「これ、夏休み前に作ったままになってたのよね」
掌に乗せたのは、小さな通信機の試作品。
指先で軽く調整し、耳に当てると――。
『……ミ、ミナ? 聞こえるか?』
ノイズ混じりの声が飛び込んできた。
「ジーク!」
思わず顔を明るくする。
「ちょっと! ちゃんと動いたわ!」
『いや、途切れ途切れで……おい、今の聞こえたか?』
「大丈夫、聞こえてる!」
ふたりの声は、時折ノイズに遮られながらも確かに繋がっていた。
◇
短いやり取りの後、ミナはふと真顔になる。
「ねえ、ジーク」
『ん?』
「……やっぱり、親には言わなきゃと思うの。私たちのこと」
しばし沈黙が落ちる。
ノイズがまた混じり、ジークの息づかいだけがかすかに聞こえる。
『……逃げる気はない』
やがて返ってきた声は、低く真剣だった。
『きちんと向き合うよ。お前の親御さんにだって、俺の言葉で話す』
「……ジーク」
胸が熱くなり、思わず握りしめる手に力が入る。
だが――。
『だから、将来は――……剣だけじゃ……なく……』
「えっ? ジーク? 聞こえない! 今のとこ一番大事だから!」
慌てるミナの声に、またノイズが重なった。
◇
次の瞬間、通信機越しに短く響く。
『……直接言う。待っててくれ』
ミナは思わず立ち上がった。
胸の鼓動が早鐘のように鳴る。
◇
やがて、夜の庭に現れたジーク。
現れた姿は、月明かりに映えて凛々しく見えた。
「ごめん、待たせたな」
「全然」
ミナは笑みを浮かべる。けれど声は少し震えていた。
ジークは深呼吸し、まっすぐ彼女を見つめた。
「……俺は、ただ剣を振るって生きるんじゃない。
市民も、貴族も……誰もが対等に力を発揮できる場所を作りたいんだ」
その言葉に、ミナの瞳が大きく揺れる。
「それ……それをお父様に言ったら、すごく喜ぶと思う」
頬がほんのり赤らんだ。
ジークは照れくさそうに頭を掻き、しかし視線は逸らさなかった。
「なら……なおさら、言わなきゃな」
二人の間に、静かな確信の光が生まれていた。
◇
部屋に戻ったミナは、改めて通信機を手に取った。
「……これ、ちゃんと完成させなきゃ」
夜空を見上げながら、小さく呟く。
心も道具も――確かに「繋がる」ために。
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