下着選びは乙女の戦場
学院の朝。
窓から差し込む陽射しに、寮の部屋はほんのり暖かさを帯びていた。
「――今日は下着を買いに行く!」
唐突に宣言したのは、ベッドの上で跳ね起きたミナだった。
「えぇっ!?」
アマネとリュシアの声がハモる。
「この前のお泊まり会で約束したでしょ!リュシアの分も揃えなきゃって!」
「う……あれは……」
リュシアの頬が赤くなる。確かにあの夜、女子だけの秘密トークで話題に出たのだ。
「普段は制服で隠れてる部分だけど、だからこそ気を抜いちゃダメなのよ! 女子力ってやつ!」
ミナは両手を腰に当てて胸を張る。
アマネは顔を赤くしながら「武具屋の方が落ち着く……」と小声で呟いた。
リュシアは目を伏せつつも、小さく頷く。
こうして三人の休日は、街の下着専門店へと向かうことに決まった。
◇
王都の商業区。
色とりどりの布地が並ぶ店先は、いつもと違う雰囲気で賑わっていた。
「わぁ……」
リュシアが思わず声を漏らす。
「見て!このレース!繊細なのに丈夫!技術力がすごい!」
ミナは目を輝かせながら棚を物色している。
「えぇと……こんなに種類があるの……?」
アマネは戸惑いながらハンガーに掛けられた下着を見比べていた。
「下着って、誰かに見せるためのものじゃなくてもいいの?」
リュシアが恐る恐る問いかける。
「もちろんよ!」ミナは即答した。
「大事なのは自分の気分! 素敵なのをつけると、それだけで一日がんばれるの!」
その時――。
「アーマーネちゃーん!」
甲高い声とともに、後ろから抱きつかれる。
「ひゃっ!? クラリス先輩!」
振り向くと、金髪を優雅に揺らすクラリスが満面の笑みで立っていた。
「まぁまぁまぁ!下着を選びに来たのね? 素晴らしいわ!だって下着は――戦闘服よ!」
「せ、戦闘服……?」
アマネは呆然と繰り返す。
「そう!誰かのためじゃなく、自分を奮い立たせるための最前線!心の鎧!女の秘密兵器よ!」
「……そんなこと言うお客様、時々いますね」横で店員が小声でフォローする。
◇
試着室に入った三人は、交代で鏡の前に立った。
「ど、どうかな……?」
カーテンを開けたリュシアは、淡い水色のレースを身に纏っていた。清楚な彼女にぴったりの色。
「……大人みたい」リュシアが小さく呟く。
「すごく似合ってる!」アマネが即答すると、リュシアは顔を真っ赤にした。
「じゃーん!」
次に飛び出してきたのはミナ。鮮やかな赤の下着に手を腰に当ててポーズを決める。
「どう?情熱的でしょ!」
「うわぁ……ジークが見たら泣いて喜ぶわ!」クラリスが容赦なく爆弾を投下。
「せ、先輩!やめてください!」ミナが慌ててカーテンを閉める。
最後はアマネ。
白地に小花模様の可憐なデザイン。
「……やっぱり恥ずかしい」
そう言いながらも、鏡に映る自分をちらりと見つめて、胸の奥がほんのり熱くなるのを感じた。
「アーマネ、似合ってる!」リュシアが言い、ミナも「間違いなく女子力アップだね!」と太鼓判を押す。
アマネは頬を赤らめて「……ありがとう」と小さく返した。
◇
買い物を終えて街を歩く三人。
紙袋を抱えて、どこか誇らしげだった。
「なんだかちょっと大人になった気がするね」アマネが呟く。
「……私も。自分のために選んだのは、初めてだから」リュシアが微笑む。
「ほらね!女子力ってそういうことなのよ!」ミナが得意げに言った。
夕焼けの空の下、三人の笑い声が響いた。
その背中には、昨日までより少し大人びた影が重なっていた。
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