王の布告—勇者を迎えるために
秋の終わり、王城前広場。
集められた貴族と市民の視線の先、玉座から立ち上がったのはアルフォンス王だった。
澄んだ声が秋風に乗り、群衆を包む。
「古きより、勇者選定の儀は聖女の祈りをもって始まると伝わる。
ゆえに我が王家は、このたびリュシア・フォン・カーディナルを“王家専属の聖女候補”として迎えることを布告する」
ざわめきが広がる。
民衆の中から「リュシア様だ……」「あの方が……」という声がこぼれた。
エリシアは最前列に立ち、まっすぐ前を見据えていた。
その眼差しは、誰よりも誇らしげで揺るぎなかった。
「彼女は純粋に祈りを紡ぐ者だ。
来るべき勇者の時代に備え、王家の庇護下にて、その務めを果たすであろう」
王の言葉に合わせてレオンが一歩進み、群衆に告げる。
「勇者を迎える準備は、我らすべてにとって必要なことだ。
だからこそ、この布告は未来への誓いでもある」
アルトも小さく頷き、仲間たちへ視線を送った。
アマネはその眼差しを受け、胸の奥が熱くなる。
(リュシアさんは……ひとりじゃない)
◇
式が終わった後、城の奥。
リュシアは、久しく会えなかった母イザベラの病室へと足を運んでいた。
窓辺に横たわる母は、やつれた顔ながらも柔らかな微笑みを浮かべた。
「リュシア……あなたが来てくれて嬉しい」
リュシアはその手を握りしめる。
「お母さま……私……聖女候補として、王家のもとで……」
震える声に、イザベラは静かに首を振った。
「肩書きはどうでもいいのよ。私はただ……あなたがあなたのまま、笑っていてくれれば」
その言葉に、リュシアの胸が熱くなる。
瞳が潤み、堪えきれずに小さく笑った。
「……はい。私、笑えます。仲間がいるから」
母はその答えを聞き、安堵するように目を閉じた。
エリシアが後ろで静かに見守りながら、心の中で誓った。
(リュシア。必ず守るわ。あなたが“あなた”の声で生きられるように)
秋の陽が差し込み、病室をやさしく照らした。
その光は、リュシアの頬を濡らした涙を温かく包んでいた。
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