囁かれた声—聖女との面談
白い石の部屋に、硬質な静けさが漂っていた。
中央に立つリュシアは、修道服の裾を揃え、形式通りの姿勢で手を組んでいる。
その表情は淡々として、感情の影が薄い。
「……聖女候補、リュシア・カーディナルです。ご用件は」
どこか遠くから響くような、無機質な声。
アマネたちの胸に、冷たい痛みが走った。
◇
カイルが一歩、前へ出る。
「リュシア。君に……会いに来た」
「私は聖女として、務めを果たします」
即答。まるで壁に跳ね返されたような響きだった。
だが、カイルは怯まない。
「務めだけじゃない。君は、仲間と笑って、怒って、泣いてきたはずだ」
ほんの一瞬、リュシアの瞳が揺れた。
◇
「そうだぜ!」ジークが低く声を張った。
「お前が怒ってくれたから、俺は無茶を控えるようになった。……だから、俺にとってその声は大事なんだ」
「リュシア」アルトが真剣な眼差しを向ける。
「君の言葉に救われた人は多い。形式じゃなく、君だからこその声で」
リュシアの指が、小さく震えた。
◇
「そうそう!」ミナが突然、明るく声を上げた。
「それに、お泊まり会の時に約束した下着、まだ買いに行けてないでしょ!?」
「……っ!!」
男子陣(ジークとアルト、ついでにカイルまで)が一斉に顔を真っ赤にする。
「な、なに言ってんだお前は!」
「……そういうことは場を考えろ」
小さな笑いが、部屋の張りつめた空気をほんの少しだけ崩した。
リュシアの唇がかすかに緩む。
◇
最後に、アマネが静かに言葉を紡いだ。
「……リュシアさんの笑顔は、光なんです。
その光に、私も……みんなも、救われてきたんです」
その声は真っ直ぐで、優しかった。
リュシアの目から、ふっと涙がこぼれ落ちる。
「……私は」
掠れるような声が、沈黙を破った。
「……私は、私でいても……いいのですか?」
◇
部屋の隅で控えていた審問官たちがざわめいた。
「聖女が……己の声を?」
「あり得ぬ……」
だが、その光景を前に、カイルの心は揺るがなかった。
(聞こえた……彼女自身の声が)
彼は強く拳を握りしめる。
(必ず……君を人に戻す。たとえどんな壁があろうとも)
涙を浮かべたリュシアの表情には、初めて人間らしい弱さと、救いを求める影が宿っていた。
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