審問官の壁—揺らぐ規律
修道院の石造りの廊下に、重たい足音が響いた。
黒衣を纏った審問官たちが現れ、その鋭い視線が仲間たちを射抜く。
「ここは聖域だ。何者であれ、無断で立ち入ることは許されない」
先頭の審問官が冷たく言い放つ。
その空気は、形式と規律で塗り固められた壁そのものだった。
アマネたちが言葉を失う中、カイルが一歩前に出た。
「……彼女に会わせてください」
「彼女?」
「リュシアです。僕は……彼女を知っています。だから、確かめさせてほしい」
審問官の眉がぴくりと動いた。だがすぐに、淡々とした声が返る。
「聖女は己の声を持たぬ者。己を差し挟む余地などない」
その言葉に、カイルの拳が震えた。
だが彼は退かず、真っすぐに見返す。
「人の心を持たない祈りに……果たして、救いはありますか?」
廊下に一瞬、重苦しい沈黙が落ちた。
審問官たちの間に、わずかな動揺が走る。
「形式を乱すことは許されぬ」
「だが……」
押し殺した声でやり取りが交わされ、やがて一人の審問官が低く告げた。
「――面談の場を設けよう。ただし、余計な感情を持ち込めば、その時点で退去してもらう」
仲間たちは小さく息をのんだ。
カイルは深く頷き、静かに答える。
「分かりました。……必ず、彼女に伝えます」
その目には、揺るぎない光が宿っていた。
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