潜入—修道院の闇へ
夜。
月明かりを背に、六人とアメリアは修道院の裏門へとたどり着いていた。
外から見れば厳かな聖域。けれど、その石壁に映る影はどこか冷たく、不穏な気配が漂っている。
「……ここから先は、私もついていけない」
アメリアが低い声で告げる。
「だが、裏通路は確かに存在する。古い祈祷室へ通じる階段を下れば、修道院の中心部に入れるはず」
カイルが一歩前に出て頷いた。
「ありがとうございます、マザー・アメリア。……必ず、リュシアを連れ戻します」
◇
通路の入口は、苔むした石壁の隙間にあった。
ジークが力任せに押すと、鈍い音を立てて石の一部が回転し、冷たい空気が吹き抜ける。
「隠し通路ってのは、どうしてこう不気味なんだろうな」
ジークが冗談めかして言うが、その声は少しだけ震えていた。
「平気よ」
ミナが錬金の小瓶を掲げる。
「煙幕も閃光もある。万が一、捕まっても時間は稼げる」
アルトは静かに剣の柄に手を添える。
「油断するな。……ここから先は、俺たち全員が危険に晒される」
アマネはその言葉にうなずき、胸の奥で小さくつぶやいた。
(リュシア、待ってて。必ず……)
◇
石の階段を下りるたび、空気は湿り、冷え込んでいく。
蝋燭の明かりが遠くで揺れ、修道院の地下に広がる広間がうっすらと見えてきた。
そして――その中心に、淡々と祈りを捧げるリュシアの姿があった。
白い修道服に包まれた背中は整然としている。
だが、その声は機械のように抑揚がなく、心が抜け落ちたかのようだった。
「リュシア……!」
思わずカイルが声を上げる。
その瞬間、広間に鋭い声が響いた。
「――誰だ」
暗がりから姿を現したのは、修道院を監督する審問官たちだった。
彼らの手には聖印が光り、冷ややかな視線が仲間たちに突き刺さる。
「聖女の務めを妨げる者か。許されぬ」
◇
仲間たちは剣や杖を構え、互いに目を合わせる。
誰も言葉にしなかったが、心はひとつだった。
――ここで引くわけにはいかない。
修道院の闇を暴く戦いが、今まさに始まろうとしていた。
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