表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/471

合同授業 ―剣の火花

昼下がりの演習場に、生徒たちの列が整えられた。

砂の舞い上がる地面に、木剣が何十本も並んでいる。

「今日から剣術の基礎を叩き込む。使うのは、この木剣だ」

声を張ったのは、浅黒い肌の男――ガロウ教官だった。

無骨な鎧に袖をまくり、日に焼けた腕には無数の傷跡。

彼の視線は、生徒一人ひとりを値踏みするように鋭い。

「力だけで振るうな。大事なのは――折れねえことだ」

横に立つのは、中性的な風貌の助教、カミル。

銀灰色の髪を短く整え、澄んだ目で静かに頷いた。

「型を守ること。基礎を崩さないことが、結局いちばん強い剣になる」

ガロウが手を叩いた。

「まずは模擬打ち合いだ。三人ずつ前に出ろ!」

最初に立ったのは、ジーク。

赤髪を揺らしながら木剣を構えると、一息で踏み込んだ。

――ドン!

相手の木剣を豪快に弾き飛ばし、そのまま肩口へ打ち下ろす。

見学の生徒たちから歓声が湧いた。

「さすが騎士団長の息子!」

「力強いな」

ジークは照れくさそうに頭をかき、相手に手を差し伸べた。

真っ直ぐなその姿に、胸が少し熱くなる。

次に呼ばれたのは、アルト殿下。

木剣を握る手は落ち着いていて、姿勢も教本通りに整っている。

「始め!」

カン、カンッ。

打ち合う音は美しく揃い、動きに乱れはない。

――完璧。けれど。

(……少し硬い?)

私は気づいた。振り下ろすたび、彼の肩に「役割」の重みが乗っているように見える。

勇者候補と囁かれる影。その硬さが、剣の切っ先にまで滲んでいた。

そして、私の番が来た。

木剣を握ると、掌が汗で滑る。

相手の子は明らかに私より体格が良く、踏み込みのたびに押し込まれそうになる。

でも、倒れない。

庵で薪を割ったときの、あの足の踏ん張り方。

体は小さくても、崩れない。

カンッ、カンッ。

受け続けるうちに、相手の息が乱れていく。

やがて「止め!」の声で試合が終わった。

大きな歓声は起こらなかった。

でも、ガロウ教官が腕を組み、にやりと笑った。

「……力は足りねぇ。だが、粘りは武器だ。戦場で最後に立ってるのは、そういう奴だ」

カミル助教も横から静かに言葉を添える。

「基礎に忠実。崩れていなかった。それは大きな才能です」

胸の奥が、じんわり熱くなる。

魔力制御の時と同じだ。今度も、ちゃんと見てもらえた。

授業の終わり。木剣を片付けながら、隣に立ったジークが私をちらりと見た。

「お前、意外とやるな」

「えっ……あ、ありがとう」

彼は豪快に笑い、肩を叩いた。

「今度、また打ち合おうぜ。楽しかった」

木剣の感触がまだ掌に残っている。

痛みと一緒に、小さな自信が心の中に灯っていた。

――粘りは、武器。

庵でくべた薪の音が、また一つ重なった気がした。


読了感謝!次の回もこのあと投稿予定です(準備でき次第)。ブクマ&感想で応援お願いします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ