合同授業 ―剣の火花
昼下がりの演習場に、生徒たちの列が整えられた。
砂の舞い上がる地面に、木剣が何十本も並んでいる。
「今日から剣術の基礎を叩き込む。使うのは、この木剣だ」
声を張ったのは、浅黒い肌の男――ガロウ教官だった。
無骨な鎧に袖をまくり、日に焼けた腕には無数の傷跡。
彼の視線は、生徒一人ひとりを値踏みするように鋭い。
「力だけで振るうな。大事なのは――折れねえことだ」
横に立つのは、中性的な風貌の助教、カミル。
銀灰色の髪を短く整え、澄んだ目で静かに頷いた。
「型を守ること。基礎を崩さないことが、結局いちばん強い剣になる」
ガロウが手を叩いた。
「まずは模擬打ち合いだ。三人ずつ前に出ろ!」
◇
最初に立ったのは、ジーク。
赤髪を揺らしながら木剣を構えると、一息で踏み込んだ。
――ドン!
相手の木剣を豪快に弾き飛ばし、そのまま肩口へ打ち下ろす。
見学の生徒たちから歓声が湧いた。
「さすが騎士団長の息子!」
「力強いな」
ジークは照れくさそうに頭をかき、相手に手を差し伸べた。
真っ直ぐなその姿に、胸が少し熱くなる。
◇
次に呼ばれたのは、アルト殿下。
木剣を握る手は落ち着いていて、姿勢も教本通りに整っている。
「始め!」
カン、カンッ。
打ち合う音は美しく揃い、動きに乱れはない。
――完璧。けれど。
(……少し硬い?)
私は気づいた。振り下ろすたび、彼の肩に「役割」の重みが乗っているように見える。
勇者候補と囁かれる影。その硬さが、剣の切っ先にまで滲んでいた。
◇
そして、私の番が来た。
木剣を握ると、掌が汗で滑る。
相手の子は明らかに私より体格が良く、踏み込みのたびに押し込まれそうになる。
でも、倒れない。
庵で薪を割ったときの、あの足の踏ん張り方。
体は小さくても、崩れない。
カンッ、カンッ。
受け続けるうちに、相手の息が乱れていく。
やがて「止め!」の声で試合が終わった。
大きな歓声は起こらなかった。
でも、ガロウ教官が腕を組み、にやりと笑った。
「……力は足りねぇ。だが、粘りは武器だ。戦場で最後に立ってるのは、そういう奴だ」
カミル助教も横から静かに言葉を添える。
「基礎に忠実。崩れていなかった。それは大きな才能です」
胸の奥が、じんわり熱くなる。
魔力制御の時と同じだ。今度も、ちゃんと見てもらえた。
◇
授業の終わり。木剣を片付けながら、隣に立ったジークが私をちらりと見た。
「お前、意外とやるな」
「えっ……あ、ありがとう」
彼は豪快に笑い、肩を叩いた。
「今度、また打ち合おうぜ。楽しかった」
木剣の感触がまだ掌に残っている。
痛みと一緒に、小さな自信が心の中に灯っていた。
――粘りは、武器。
庵でくべた薪の音が、また一つ重なった気がした。
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