影の協力者—アメリアの告白
夕刻の学園。
鐘の音が遠くで鳴り、校庭のざわめきが薄れていく。
カイルたちは人目を避け、聖堂裏の石畳に集まっていた。
冷たい空気の中、彼らに歩み寄る影がある。
白い修道服に身を包んだ、柔らかな眼差しの女性――マザー・アメリアだった。
「……驚かせてしまったわね」
アメリアは小さく会釈をする。
「あなたたちが心配していること、わかっています。リュシアのことです」
ジークが身構え、ミナは疑わしげに目を細める。
アルトも表情を引き締めたが、アマネだけはそっと口を開いた。
「マザー……リュシアを助けたいんです。どうか、力を貸してください」
アメリアはその言葉に目を細め、わずかに微笑んだ。
「ええ……私も、彼女の本来の姿を守りたい。ですが――教会は今、枢機卿たちの目が光りすぎていて、私が動けばすぐに気づかれてしまいます」
カイルが一歩前に出る。
「じゃあ、どうすれば……?」
アメリアは周囲を確かめ、声を潜めた。
「修道院には、かつて異端審問に使われた“裏の通路”があります。表向きは封鎖されましたが……完全には閉ざされていないはずです。そこからなら、人目を避けてリュシアのもとへ近づけるでしょう」
仲間たちは息をのむ。
ジークが小さくうなり、ミナが「やっぱり裏口があるのね」と呟く。
「でも、気をつけて」
アメリアの声色が変わった。
「リュシアだけでなく……もう一人、この場所で彷徨う娘がいます」
「……?」
「コルネリア・フォン・ラウレンツ。かつて聖女候補だった子。
“神の声が続かなかった”とされて落選し、修道女として生きてきた……けれど、心の奥には深い闇を抱えている。枢機卿や教皇が彼女を利用しようとしている気配があるのです」
その名を告げると、アメリアの表情は痛みに揺れた。
アルトが眉を寄せ、カイルは無意識に拳を握りしめる。
アマネは小さく呟いた。
「……リュシアだけじゃないんだ」
アメリアは頷いた。
「あなたたちなら、きっと救える。だから、どうか……彼女を“器”のままにしないで」
言葉を残し、アメリアは静かに去っていった。
残された仲間たちは互いに顔を見合わせる。
夜風が吹き抜け、火急の気配が胸を打つ。
「行くしかないな」ジークが低く言う。
カイルは真剣な目で皆を見渡し、頷いた。
「必ず……リュシアを、人として取り戻す」
その言葉に、誰も異を唱える者はいなかった。
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