決意の芽
教会本部・礼拝堂。
誰もいない静寂の中、リュシアはひざまずき、形式通りの祈りを捧げていた。
「神よ……私は……」
薄く響く声は、教本に書かれた文句そのまま。
抑揚も、温もりもなく、ただ機械的に紡がれていく。
ステンドグラスの光が床に落ちる。
その色彩の中で――ふと、囁くような声が漏れた。
「……私は、私でいいの……?」
祈りとは別の、彼女自身の声。
小さく、かすれて、けれど確かに本心だった。
その言葉を聞き取ったのは――扉の影に立つ、ただ一人。
カイルだった。
(リュシア……!)
胸の奥が熱くなる。
あの冷たい形式の奥に、確かに彼女自身の声が残っている。
「必ず……君を人に戻す」
心の中で強く誓った。
それは恋慕というより、信念に近い決意だった。
◇
学園の寮へ戻ったカイルは、仲間たちの輪の中へ歩み出た。
その表情にただならぬものを感じて、皆が視線を向ける。
「……リュシアの様子を見てきた。形式通りの祈りをしていた。でも……」
言葉を切り、カイルは強く握りしめた拳を胸の前に置いた。
「……あの中に、まだリュシア自身の声が残っていた」
仲間たちの顔に、安堵と戸惑いの入り混じった影が浮かぶ。
それでもアマネが、まっすぐに頷いた。
「だったら……まだ助けられるよね」
その言葉に、カイルの瞳が強く揺らぐ。
――自分ひとりではできない。だからこそ。
胸の奥で熱を噛みしめながら、彼は仲間たちを見渡した。
心の中で、はっきりと誓う。
(必ず……彼女を取り戻す。そのために、皆の力を借りるんだ)
静かに息を吐き、カイルは輪の中に腰を下ろした。
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