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初潜入—冷たい祈りの影

大理石の床に、足音が乾いて響いた。

高い天井から吊るされた燭台は、揺らぐことなく均一に光を放つ。

――整いすぎている。

カイルは無意識に肩を強張らせながら、教会本部の廊下を進んでいた。

「司法卿アウレリウスの子息。ようこそ」

迎えに出た修道女は、口元に微笑を浮かべている。だがその笑みは、絵に描かれたように同じ角度、同じ硬さ。

(……皆、同じ顔だ)

背筋に薄い寒気が走った。

中庭を通りかかった時、視線がふと止まった。

そこに、白衣のような修道服に身を包んだ少女――リュシアの姿があった。

両手を胸の前で組み、淡々と祈りの言葉を紡ぐ。

声は澄んでいる。所作も完璧だ。

だが、そこに「彼女らしさ」がなかった。

「……リュシア」

思わず名を呼んだ。

彼女の瞳がゆっくりと動く。だが光は乏しい。

「……聖女として、務めを果たします」

その一言で、また祈りに戻ってしまった。

「……」

カイルは言葉を失う。

思わず手を伸ばしかけたが、次の瞬間には修道女の一人が間に立ち、道を塞いだ。

「神聖なる修練の最中です。お静かに」

冷たくも礼儀正しい声。だがそれは人間味を削ぎ落とした響きだった。

カイルは拳を握りしめ、足を止めた。

(これが……人形化……)

夕刻。外に出ると、空は赤く染まっていた。

庵や学園で見ていた、あの無邪気に笑うリュシアはそこにはいない。

「務めを果たします」――それしか言えない、空虚な殻。

胸の奥に、ひりつく痛みが広がった。

(……リュシア。君の声は、どこに消えたんだ……?)

冷たい風が吹き抜け、教会の鐘の音が遠くで鳴り響いた。

その音は祝福ではなく、牢獄の合図のように聞こえた


お読みいただきありがとうございます。いけるところまで連続投稿!(不定期ですが毎日目標)。

面白かったらブクマ&感想で応援いただけると嬉しいです。


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