教会の影—計画の胎動
重厚な石造りの会議室。
長机を囲む枢機卿たちの衣擦れの音が、荘厳な静けさを満たしていた。
「――リュシアはどうだ」
玉座のような椅子に座す教皇ヴィクトルが、低く問いかける。
「順調に“純化”が進んでおります」
答えたのは赤衣の枢機卿ラファエル。
「学園で身につけた余計な感情や人間味は、ほとんど消えつつある。儀式に耐えうる器となるのも時間の問題でしょう」
「うむ……」
教皇は目を細めた。
枢機卿アウローラが懐疑を含んだ声を上げる。
「しかし、王妃派が黙ってはおりますまい。特にエリシア王妃は“人間としての聖女”を口にする。あれが広まれば、秩序が崩れかねません」
「だからこそ、形式を徹底するのだ」
教皇はゆっくりと立ち上がった。
「聖女とは己を消し、神の声だけに従う存在。
己の言葉など不要だ。――そう示せばよい」
「……なるほど。形式こそが力、ですな」
ラファエルがうなずき、他の枢機卿たちも追従する。
◇
会議が終わり、人影の消えた石廊下。
教皇ヴィクトルは誰もいないはずの影に向かって呟いた。
「――依代としての器は整いつつある」
闇の中で、低く笑う声が応えた。
「ならば時は近い。聖女の名を冠する者ほど、美しい贄はない」
ランプの炎が揺れ、壁に黒い影が不気味に伸びていった。
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