薄れる笑顔—距離を置くリュシア
秋風が吹き抜ける学園の中庭。
石畳の上に落ち葉が舞い、空は高く澄み渡っていた。
「リュシア、今日は一緒に昼食をどう?」
アマネが声をかける。
だがリュシアは、わずかに微笑みを浮かべただけで首を横に振った。
「……ごめんなさい。用事があるの」
その声は穏やかだったが、どこか張り付いた笑顔のように見えた。
◇
教室でも同じだった。
授業の合間、ミナが軽口を叩いても、リュシアは「ふふ」と短く笑うだけ。
ジークが冗談を飛ばしても、以前のような鋭いツッコミは返ってこない。
「……あれ?」
ミナが小声でアマネに囁いた。
「なんか、薄くない? リュシアの笑顔」
アマネは頷いた。
(うん……まるで、心の温度が消えてるみたい)
◇
放課後。
夕陽が窓を染める廊下で、アルトがリュシアを呼び止めた。
「リュシア。最近……元気がないように見える。何かあったのか?」
リュシアは一瞬、言葉を探すように俯いた。
そしてすぐに、柔らかい微笑を浮かべる。
「……大丈夫です。アルト様。心配には及びません」
その答えは完璧すぎて、逆に胸を締めつけた。
(違う。これは……“リュシア”じゃない)
アルトは確信した。
◇
夜。
寮の食堂に集まった五人は、互いに視線を交わし合った。
「やっぱり……おかしいよな」ジークが低く呟く。
「笑ってるのに、笑ってねぇ」
「……心が置き去りになっているようだ」カイルが静かに言った。
アマネは拳を握りしめる。
「リュシアが……戻ってしまった。人形みたいに……」
仲間の間に、重い沈黙が落ちた。
けれどまだ、この時は誰も答えを持っていなかった。
――ただ、リュシアを救わなければならないという思いだけが、五人の胸に強く芽生えていた。
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