表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

110/471

距離を置く聖女—学園に戻って

秋の風が学園の中庭を渡り、夏の熱気をようやく和らげていた。

新学期を告げる鐘が鳴り響き、講堂には生徒たちのざわめきが広がる。

壇上に立つ学院長エジルが簡潔に言葉を述べ、進級式は淡々と終わった。

だが――六人の仲間は、その場に立つリュシアの様子に違和感を覚えていた。

「リュシア、また庵で皆で集まりたいね!」

式後、中庭で声をかけたミナが明るく笑う。

だが返ってきたのは、少し冷たい響きのある言葉だった。

「……そのような贅沢、聖女候補としては控えるべきかと」

「え?」

ミナの笑顔が一瞬固まる。

アマネも慌てて口を開いた。

「そ、そんなことないよ。だってリュシアだって――」

「……ごめんなさい」

リュシアは小さく会釈し、言葉を切った。表情は丁寧に整えられていて、そこに夏の庵で見せた無邪気な笑みはなかった。

周囲の教師たちがささやき合う。

「やはりカーディナル嬢は聖女らしい」

「夏の間は遊び呆けていたと聞くが、しっかり矯正されたようだ」

その言葉は、リュシアを囲い込もうとする教会派の思惑そのものだった。

――伯母マリアの叱責、修道院での再教育。

それらが確実に彼女の心を縛っている。

「なんか……遠くなっちゃったみたい」

ミナがぽつりと漏らす。

「……ああ」

ジークが腕を組み、言いたいことを飲み込む。

「言いてぇことあんなら言えよ」――そう叫びたかった。けれど、それは彼女をさらに追い詰める気がして。

「教会の影響でしょう」

冷静に眼鏡を押し上げたカイルが小声で告げる。

「父も……同じ考え方をする人間ですから」

アルトは黙ったまま、ただ心配そうにその横顔を見つめていた。

放課後。

石畳の渡り廊下を歩いていたリュシアのもとへ、アマネが駆け寄った。

「リュシア!」

振り返った彼女は、かすかに微笑んだ。だがその笑みは、どこか作り物めいていた。

「……ごめんなさい。少し、一人にさせてください」

軽く礼をして、彼女は背を向ける。

アマネは伸ばしかけた手を止め、その背中をただ見送った。胸の奥が、ひどく冷える。

「……人形みたいに戻っちゃった」

その呟きが秋風に溶け、遠く鐘の音が鳴り響いていた。


お読みいただきありがとうございます。いけるところまで連続投稿!(不定期ですが毎日目標)。

面白かったらブクマ&感想で応援いただけると嬉しいです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ