庵を去る朝—それぞれの帰路へ
朝靄がまだ竹林の隙間に残り、庵の庭には静かな涼風が吹いていた。
縁側の前には旅支度を整えた仲間たちが集まっている。
「じゃ、またな!」
ジークが大剣を背に担ぎながら、豪快に笑った。隣ではミナが荷物の袋を肩にかけ、しっかりとした足取りで立っている。
「次に会うときまでに、もっと効率的な訓練方法を考えておくから!」
「お前は休むことも覚えろよ!」とジークが突っ込むと、皆に笑いが広がった。
「リュシア様、こちらへ」
教会からの迎えの馬車が停まっていた。リュシアは胸に手を当てて深く会釈し、アマネへと視線を向けた。
「……また、必ず戻ります」
その声は少し震えていたが、彼女の瞳には確かな意志が宿っていた。
カイルは父アウレリウスの従者に迎えられていた。
「……庵での学びは、無駄にはしません」
そう言って小さく微笑み、眼鏡の奥でアマネに一瞬だけ柔らかい目を見せた。
アルトも旅装を整え、馬に手を添えていた。
「庵は、俺にとっても大切な場所だ。またみんなで来よう」
その言葉に、アマネは力いっぱい頷いた。
◇
やがて、一人また一人と庵を後にし、庭は静けさを取り戻していった。
手を振っていたアマネの笑顔も、皆の背中が見えなくなると次第に色を失っていく。
「……みんな、家族のところに帰るんだよね」
ぽつりと呟き、胸に小さな穴が空いたような感覚が広がった。
◇ 夜。
縁側に腰を下ろし、カグヤを抱きしめながら星を仰ぐ。
白い毛並みは温かいのに、心の奥はどうしようもなく冷たい。
「……私だけ、帰っても家族がいないんだ」
小さな声は、夜風に溶けて消えていった。
カグヤが尾をふわりと揺らし、アマネの頬に優しく触れる。
それでも孤独の影は消えず、アマネはただ静かに夜空を見上げていた。
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