効率よりも—ミナの決断
庵の庭。夏の日差しが竹林の隙間から差し込み、昼の空気はのんびりしていた。
アルトとカイルは結界の研究を広げ、アマネとリュシアは洗濯物を取り込んでいる。ジークは木陰で大剣を磨いていた。
そんな穏やかな空気を――ミナの声が切り裂いた。
「ジーク!」
鋭い声に、全員が振り返る。
ミナは息を吸い込み、迷いなく叫んだ。
「私、あんたのことが好き! 付き合って!」
……一瞬、時が止まった。
アルトは目を瞬かせ、カイルは眼鏡を直し損ねてレンズを曇らせる。
アマネは両手に抱えた洗濯籠を落としそうになり、リュシアはタオルを握ったまま固まった。
「……は?」
ジークの大剣を磨く手が止まる。彼は少し眉を上げ、だがすぐにまっすぐにミナを見た。
「急だな」
ゆっくりと立ち上がり、剣を背に収める。
「でも……お前のそういうとこ、嫌いじゃねぇ。効率とかじゃなくて、本気で言ってるなら――」
ジークは胸を張り、真っ直ぐな声で答えた。
「俺も本気で応える」
ミナの頬が一気に真っ赤に染まった。
「……っ、当たり前でしょ! 効率とかそういうのじゃなくて……好きだから言ったの!」
庭の空気が、一気に弾けた。
「ええええええええっ!?」
全員が一斉に叫ぶ。
アマネは顔を真っ赤にして洗濯籠を抱きしめ、リュシアは口元を押さえて目を丸くする。
アルトは呆然とし、カイルは「……展開早すぎだろ……」と額を押さえた。
縁側でその様子を見ていたアサヒとエリシアは、同時に吹き出す。
「若いってすごいわねぇ」
「勢いもまた力、か」
ルシアンは黙って白狐のカグヤを撫で、ただ柔らかく微笑んでいた。
――こうして、庵の昼下がりに新しい恋が芽吹いた。
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