恋心の芽—ミナの秘密相談
夜の庵。温泉帰りの肌に心地よい夜風が吹き抜ける。
虫の声が静かに響く縁側に、ミナは浴衣姿のまま腰を下ろしていた。
膝を抱え、どこか落ち着かない仕草。
「……ねぇ、ちょっと聞いてくれる?」
隣に座るアマネとリュシアが顔を向ける。
ミナは珍しく、言葉を探すように間を置いた。
「私……効率とか結果ばっかり考えてきたでしょ。でもさ、庵に来てから……その、ちょっと違う気がして」
アマネが首を傾げる。「違うって?」
「ジークって、全然効率的じゃないのよ。力任せだし、計画性ゼロだし……。でも、誰かが困ってたら迷わず飛び込んでいく。無駄ばっかりなのに――」
ミナの声がかすかに震えた。
「どうしてか、放っておけなくて。……目が離せないの」
アマネはパッと笑顔になった。
「すごくいいと思う! ミナがそう感じるの、すごく素敵だよ」
リュシアは静かに彼女を見つめる。
「でも、ミナ。大事なのは“効率的だから”とか“立派だから”じゃない。――あなたがどうしたいか。あなたの声は、どこにあるの?」
ミナの瞳が揺れる。
縁側を渡る夜風が、彼女の頬を赤く染めた。
「……私、ジークが好き。
無駄でも、不器用でも――あの人と一緒にいたいって思っちゃう」
言葉にした瞬間、胸の奥が熱くなった。
効率でも計算でもない。これが“自分の声”。
縁側の奥で話を聞いていたアサヒが、ふっと微笑んだ。
「いいじゃない。恋って、そういう不器用な気持ちの積み重ねでしょ」
エリシアも湯上がりの髪を撫でながら、からかうように言う。
「ええ。効率なんて無視して、突っ走るものよ。特に若いうちはね」
ミナは思わず顔を覆った。
「……ああもう! なんで大人に聞かれちゃってるのよ!」
アマネとリュシアは笑い合い、縁側には柔らかな空気が流れる。
庵の夜空には星が瞬き、少女たちの声を静かに包み込んでいた。
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