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湯けむりの素顔—温泉にて

※入浴描写があります

庵から少し山道を登った先に、湯けむりが立ち上る場所があった。

「わぁ……!」

思わず声を上げたのはアマネだ。

白い霧に包まれた岩場から、温泉がこんこんと湧き出している。

「アマネ、来たことあるの?」リュシアが問いかける。

「うん、でもたまにだけ。庵の手伝いのご褒美に連れてきてもらったくらいかな」

照れくさそうに笑うアマネの顔に、皆もつられて頬を緩めた。

女子風呂。

広い湯船に体を沈めると、心までほぐれていくようだった。

「ふぅ……気持ちいい……」リュシアが小さな吐息を漏らす。

その頬はほんのりと赤く染まり、どこか柔らかな表情をしていた。

「リュシア、なんか前より自然に笑ってるね」アマネが微笑むと、リュシアは少し驚いたように目を瞬かせた。

「……そう、でしょうか」

「うん。人形みたいだった前より、今の方がずっと……リュシアだよ」

「……私で、いいんですね」

湯けむりにかすむ瞳が、静かに揺れた。

そこへミナがばしゃっと湯をはねさせて割り込んでくる。

「ねぇねぇ! ちょっと胸大きくなってない? 気のせい?」

「み、ミナっ!」アマネが真っ赤になって沈み込み、リュシアも困ったように微笑んだ。

女子風呂には、くすくすと笑い声が響く。

男子風呂では、ジークが豪快に湯船を泳ぎ回っていた。

「おい、ここは川じゃねぇぞ!」アルトが呆れ声をあげる。

「はははっ! 湯がもったいねぇだろ!」

「落ち着け、熱でのぼせるぞ」カイルは眉をひそめつつも、口元は少し笑っていた。

少し離れた岩陰では、セレスの姿のエリシアとアサヒが湯に浸かり、穏やかに話をしている。

「こういう場所じゃないと、素の顔なんて出せないものね」

「ええ。だからこそ、大切なんですよ」

彼女たちの言葉に重なるように、笑い声や水音が山に溶けていく。

湯けむりの中で、誰もが鎧を脱ぎ、肩の力を下ろしていた。

仲間として以上に、人として――素顔をさらす。

そのひとときが、それぞれの心に小さな変化の兆しを残していた。


お読みいただきありがとうございます。いけるところまで連続投稿!(不定期ですが毎日目標)。

面白かったらブクマ&感想で応援いただけると嬉しいです。


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