湯けむりの素顔—温泉にて
※入浴描写があります
庵から少し山道を登った先に、湯けむりが立ち上る場所があった。
「わぁ……!」
思わず声を上げたのはアマネだ。
白い霧に包まれた岩場から、温泉がこんこんと湧き出している。
「アマネ、来たことあるの?」リュシアが問いかける。
「うん、でもたまにだけ。庵の手伝いのご褒美に連れてきてもらったくらいかな」
照れくさそうに笑うアマネの顔に、皆もつられて頬を緩めた。
◇
女子風呂。
広い湯船に体を沈めると、心までほぐれていくようだった。
「ふぅ……気持ちいい……」リュシアが小さな吐息を漏らす。
その頬はほんのりと赤く染まり、どこか柔らかな表情をしていた。
「リュシア、なんか前より自然に笑ってるね」アマネが微笑むと、リュシアは少し驚いたように目を瞬かせた。
「……そう、でしょうか」
「うん。人形みたいだった前より、今の方がずっと……リュシアだよ」
「……私で、いいんですね」
湯けむりにかすむ瞳が、静かに揺れた。
そこへミナがばしゃっと湯をはねさせて割り込んでくる。
「ねぇねぇ! ちょっと胸大きくなってない? 気のせい?」
「み、ミナっ!」アマネが真っ赤になって沈み込み、リュシアも困ったように微笑んだ。
女子風呂には、くすくすと笑い声が響く。
◇
男子風呂では、ジークが豪快に湯船を泳ぎ回っていた。
「おい、ここは川じゃねぇぞ!」アルトが呆れ声をあげる。
「はははっ! 湯がもったいねぇだろ!」
「落ち着け、熱でのぼせるぞ」カイルは眉をひそめつつも、口元は少し笑っていた。
◇
少し離れた岩陰では、セレスの姿のエリシアとアサヒが湯に浸かり、穏やかに話をしている。
「こういう場所じゃないと、素の顔なんて出せないものね」
「ええ。だからこそ、大切なんですよ」
彼女たちの言葉に重なるように、笑い声や水音が山に溶けていく。
◇
湯けむりの中で、誰もが鎧を脱ぎ、肩の力を下ろしていた。
仲間として以上に、人として――素顔をさらす。
そのひとときが、それぞれの心に小さな変化の兆しを残していた。
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