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理と情—揺れる守りの在り方

庵の夜。

囲炉裏の火がぱちぱちと音を立て、淡い橙が影を揺らしていた。

皆はそれぞれに談笑していたが、カイルはひとり離れて座り、本を閉じて溜息をついた。

「カイル、疲れてる?」

アマネが首をかしげながら近づいてくる。

「……少しな」

彼は眼鏡を外し、額に指を当てた。

「どうすれば“正しい守り”ができるのか……考えてしまって」

ルシアンが静かに茶を置いた。

「正しいとは、誰にとってだ?」

問いかけに、カイルの手が止まる。

「……皆にとってです。仲間全員を守るのが当然でしょう」

「だが、理だけで人を守れるか?」

その声は淡々としていたが、胸に深く刺さった。

カイルは口を開きかけて、言葉を失った。

その時、アマネがそっと膝を抱えながら笑った。

「私ね、誰かに守られたから今ここにいるの」

囲炉裏の火を見つめながら、少し照れくさそうに続ける。

「理屈じゃ説明できないけど……心に残ってるんだ。

だから私も、同じように誰かを守りたいって思うの」

「……感情で、守りたいと?」

カイルは眉を寄せる。

「うん。計算じゃなくて、気持ちで動くこともあるよ」

アマネの素直な声に、カイルの胸に小さな揺らぎが生まれる。

さらに、リュシアがそっと口を開いた。

「私も……祈りは、理屈だけで成り立つものではありません。

誰かを想うからこそ、力になるのだと思います」

その言葉に、カイルは目を伏せた。

理に基づいて築いてきた自分の盾。

だが、そこに欠けていたものが確かにあると気づかされる。

沈黙を破ったのはルシアンだった。

「理も、情も。どちらも手放す必要はない」

淡く笑みを浮かべて、茶をすする。

「両方を抱えたとき、人はより強くなる」

カイルは深く息を吐いた。

「……そうかもしれません」

眼鏡をかけ直す手が、わずかに震えていた。

囲炉裏の火が、静かに燃え続ける。

カイルの心にはまだ答えは出ていない。

だが――理と情、その両方を抱える覚悟が、確かに芽生え始めていた。


お読みいただきありがとうございます。いけるところまで連続投稿!(不定期ですが毎日目標)。

面白かったらブクマ&感想で応援いただけると嬉しいです。


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