理と情—揺れる守りの在り方
庵の夜。
囲炉裏の火がぱちぱちと音を立て、淡い橙が影を揺らしていた。
皆はそれぞれに談笑していたが、カイルはひとり離れて座り、本を閉じて溜息をついた。
「カイル、疲れてる?」
アマネが首をかしげながら近づいてくる。
「……少しな」
彼は眼鏡を外し、額に指を当てた。
「どうすれば“正しい守り”ができるのか……考えてしまって」
◇
ルシアンが静かに茶を置いた。
「正しいとは、誰にとってだ?」
問いかけに、カイルの手が止まる。
「……皆にとってです。仲間全員を守るのが当然でしょう」
「だが、理だけで人を守れるか?」
その声は淡々としていたが、胸に深く刺さった。
カイルは口を開きかけて、言葉を失った。
◇
その時、アマネがそっと膝を抱えながら笑った。
「私ね、誰かに守られたから今ここにいるの」
囲炉裏の火を見つめながら、少し照れくさそうに続ける。
「理屈じゃ説明できないけど……心に残ってるんだ。
だから私も、同じように誰かを守りたいって思うの」
「……感情で、守りたいと?」
カイルは眉を寄せる。
「うん。計算じゃなくて、気持ちで動くこともあるよ」
アマネの素直な声に、カイルの胸に小さな揺らぎが生まれる。
◇
さらに、リュシアがそっと口を開いた。
「私も……祈りは、理屈だけで成り立つものではありません。
誰かを想うからこそ、力になるのだと思います」
その言葉に、カイルは目を伏せた。
理に基づいて築いてきた自分の盾。
だが、そこに欠けていたものが確かにあると気づかされる。
◇
沈黙を破ったのはルシアンだった。
「理も、情も。どちらも手放す必要はない」
淡く笑みを浮かべて、茶をすする。
「両方を抱えたとき、人はより強くなる」
カイルは深く息を吐いた。
「……そうかもしれません」
眼鏡をかけ直す手が、わずかに震えていた。
◇
囲炉裏の火が、静かに燃え続ける。
カイルの心にはまだ答えは出ていない。
だが――理と情、その両方を抱える覚悟が、確かに芽生え始めていた。
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