プロローグ:声を見つける場所
※本作はR15相当(軽度の戦闘描写あり/過度な残虐・性的表現はありません)。
※用語表記は**《武器》/『技』/〈精霊〉**(初出のみ括ります)。
勇者アマネと聖女リュシア、二人の物語です。どうぞお楽しみください。
山あいにひっそりと建つ小さな庵。
夕刻になれば、木枯らしの音にまじって香ばしい茶葉の匂いが漂う。
主ルシアンは静かに湯を注ぎ、器を差し出した。
「……それで、あなたはどうしたい?」
低く、柔らかな声。
不思議と胸のもやが晴れて、訪れた者は思わず言葉をこぼしてしまう。
その傍らには、妻のアサヒが控えていた。
しなやかな身のこなしと母のような微笑みで、夫の問いをやわらかく包む。
「焦らなくていいの。ここでは、ゆっくりでいいから」
ここは答えを教える場所ではない。
けれど、人は皆ここで自分の声を見つけていく。
――庵の片隅に、一人の少女がいた。
名をアマネ。
膝に白い毛並みの小さな狐〈カグヤ〉を抱え、じっと炎を見つめている。
山里に身を寄せ、行くあてもなく暮らすその少女を、ルシアンとアサヒは当たり前のように迎え入れた。
まるで最初から家族であったかのように。
まだ何者でもないその小さな背に、
やがて世界を変える光が宿ることを――
誰も知らなかった。
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次回から第1話を掲載していきます。




