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4.夢

気づいたら、浪士たちは床に倒れていた



バタバタと音がし、今更ながらも近所の人が駆けつけてくれた。



屋敷の世話人が呼びにいってくれたらしい。



ゴホゴホッと総司は咳をした。



血の味がする。



最後まで放さなかった菊一文字は鍔まで血に染まっている。






死が近い、総司は悟った。



俺はもう、ここにいてはいけない。



朦朧とする頭で総司はそんなことを思った。






目が覚めたとき、目の前には見慣れた天井が広がっていた。



総司の寝ている布団のよこには水と薬も置いてある。



紗那の控えめな笑顔が脳裏に浮かび、ふと思った。



「俺は、長くて幸せな夢を見ていたのかもしれない…」



呟いたら、ガタッと音がして襖が開いた。



「夢?なんですか?」



聞き慣れた声、いつもそばにある。



紗那…。



「総司さん…夢なんかじゃないですよ」



「……」



「私はここにいます」



紗那は総司の手を握った。



「だめだ、紗那」



総司は慌てて紗那から離れる。



「総司さんは…紗那のことお嫌いなんですか?」



「俺はもうここにいられないんだ」



「紗那のことお嫌いなんですね」



違う、違う違う違う。



総司はブンブンと首を振った。



「違う…好きだ。好きだよ」



だから、総司はふっと笑った。



「だからここにはいられないんだ」



「嫌ッ」



紗那は総司にしがみついた。



頬が濡れている。



「俺がここにいては、また浪士たちが来るかもしれない」



総司はしがみつく紗那の髪をそっと撫でる。



「そうなったら、俺はまた大切な人を傷ついてしまう。もしかしたら殺してしまうかもしれない」



「それでも・・・いいです」



「俺が嫌なんだよ、紗那」



総司はにっこり笑って、紗那の頬に口付けした。



「嫌、総司さんッ」



涙で頬を濡らす紗那から離れ、総司は菊一文字を持ち上げた。



これ以上は限界だった。



これ以上紗那に触れていたら、言ってしまいそうになる。



「好きだ」「俺の女になってくれ」「ずっとここにいたい」と。



あいにく総司には紗那を縛る権利はない。



それに、自分は紗那より先に死ぬのだ。



運命は変えられない。



紗那、大好きだ。



だから…幸せになってくれ。



「紗那。俺はいつだって君の幸せを願っているよ」



それが紗那への最後の言葉。



ほんの少しの未練の現れ。



それだけ言うと、総司はくるりと背を向け―――





もう二度と、生きて紗那に会うことはなかった。


次で最後です。


短い長編でしたね・・・;;

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