春臣:ワガママが聞きたいです。
「謝らなくちゃいけないのは僕の方ですよ」
春名さんを泣かせてしまっただけではありません。
傷つけて、悩ませて、挙句の果てにケガまでさせてしまったのです。
もっと僕がしっかりしておくべきだったと、悔やんでも悔やみきれません。
そう言うと、春名さんは大きく首を振って春臣のせいじゃないと言ってくれました。
「許してもらえますか?」
「あたし、こそっ」
「春名さんは、悪くないです」
「ううん、あたしがちゃんと言えば良かった。春臣はいつだってちゃんと聞いてくれるもん」
再び、春名さんの目にじわりと涙がにじんでくるのが見えました。
それを隠すように、ギュッと唇を噛んでわずかに顔をそむけます。
そんな春名さんが、可愛くて、愛おしくて──
「……では、ひとつお願いしてもいいですか?」
「ん?」
「春名さんの、ワガママが聞きたいです」
一瞬きょとんとする春名さん。
それからすぐ、すんっ、と鼻をほんの少し鳴らし、不自由ながらもぐいっと目元をぬぐいます。
そしていつものようにまっすぐ僕を見て、口を開きました。
「バッグ、持って」
「はい」
春名さんの肩からバッグをそうっと外します。
「スカート汚れ払って」
「はい」
痛む箇所に触れないように、丁寧に埃を払います。
「家まで送って」
「はい」
話をしながら春名さんと一緒に居られるのですから、送らせてもらえるのは僕にとって幸せな時間です。
ただ、そこで春名さんは何かを言いかけ、顔を赤くして止めてしまいました。
「おしまいですか?」
そう尋ねると、さらに春名さんの顔が赤くなります。
小さな唇がほんの少し開き、再びギュッと閉じ、ふうっ、と大きく息を吐き小さく深呼吸をする春名さん。
「……これからもずっと、あたしの事好きでいて」
「喜んで了解致しました」
大きく頷いて、笑顔でそう応えました。
すると、春名さんが一瞬だけ口を尖らせて、目を逸らします。
それから、
「もっとかがんで」
と言われたので屈むと、春名さんが右手で僕のネクタイを掴みました。
腕を伸ばしたことで痛むのでしょう、一瞬眉をひそめますが、僕が何か言うより早く、
「──春臣、大好き」
と、キスをしてくれました。




