春名:嘘をついているのは、誰?
「わかった? 小さいって事は特技なのよ」
「──せめて後5センチ欲しかった」
「わかってないわねー、……っと、電話だわ♪」
「はいはい」
いそいそとあたしの部屋を出て行くお姉ちゃん。
「あ、まさくーん♪」とか言いながら自分の部屋に戻っていった。
……お姉ちゃんはよく、小さい事は特技、っていう。
でも、これまで便利だった事って言ったら──狭い所入れるとか?
あたしはロリ服好きじゃない。
だから、逆にサイズが合わなくて困る事の方が多い。
制服だって、詰めてもらった。それでもやっぱり大きい。
雑誌で見てひと目惚れしたバッグだって、あたしが持つと大きすぎて合わない。
どうしても欲しかったからショップまで行ったのに、持ってみたらランドセルみたいだった。
課外活動のときだって、あたしちゃんと荷物も持てるし、作業だってできる。
それなのに、子ども扱い。
「ちっちゃくてかわいいから」なんて言われたけど、そんなのぜんぜんうれしくない。
子どもの頃からずっとそんな風に見られて、悔しかった。
だから、勉強だって頑張ったし、できることを増やそうと思っていろいろしてきたのに、変わらない。
結局、小さくて得する事って何?
むしろ、あたしが小さいから──
──って、電話。
着信見てみると……春臣だ。
なんだろう。
「はい」
『春名さんですか?』
「当たり前じゃない」
『それもそうでした。今お時間大丈夫ですか?』
「ダメだったら出ないから」
『ありがとうございます。明日学校が終わってから、予定ありますか?』
明日は、修行式。
午前中で終わるから、その後三津屋をカラオケに誘おうかと考えてた──けど、きっと彼氏と一緒にだよね?
『春名さん?』
「ないわよっ!」
『良かった。それじゃ一緒に映画でもいかがですか?』
本当は最初に春臣誘おうと思った。
だけど、──だけど。
「……春臣、予定あるんじゃないの?」
『春名さんと過ごす以外、ありませんよ?』
「──ほんとに?」
『はい、本当です』
春臣の声は、いつも通り。
きっと電話の向こうでは、いつものあの笑顔なんだろうな。
でも、明日予定が無いって、本当?
だって、葛城が言ってたよ?
明日、藤田君誘うから、──って。
『春名さん?』
「……誰かに、誘われたりしてないの?」
『していませんが、どうしました?』
葛城が嘘ついた?
それとも、これから誘うってこと?
今日の帰り道、言ったよね、明日誘うって。
……そもそもなんでそんな事あたしに言うのよっ!
思い出して、また悔しいし腹が立つ。