春名:好きって、言ってくれたもん
「──春臣は、あたしの事好きって言った」
ちゃんと、好きだって言ってくれた。
あたしだって春臣の事好きだし、問題ないもん。
***
「やっぱり、何かあったんですか?」
「別に、何もないけどっ?」
「そうですか?」
「そうよ!」
「何かあったら、言って下さいね?」
***
「……春臣、気にしちゃったかな」
そう思うけど、答えられない──、ううん。答えたくない。
別に大した事じゃないもん。
好きだって言ってくれたし、春臣は嘘なんかつかない。
だから、気にする必要なんてない。
──そう、ない。絶対、ない。……ない。
「ないんだからっ!!」
「春名うるさいわよ!」
「……はーい」
思い切り叫んだのとほぼ同時に、部屋の外からママの声。
ちなみにママ、身長144センチ。
パパは163くらい。
──どっちにしても、小さい。
大学生のお姉ちゃんが居るんだけど、それも143センチ。
やっぱり、小さい。
牛乳毎日飲む。ストレッチをする。早めに寝る。
「これをやれば身長が伸びる」って聞いたことは、全部やってみた。
でも、あたしの身長はこの1年ちっとも変わらない。
「せめてあと5センチあればいいのに!」
「春名うるさいっ!」
「……はーい」
今度はお姉ちゃんに怒られた。
「なーに言ってんの、身長が小さいって事は特技よ?」
「勝手に入ってこないでよ」
「いいじゃない別に」
「良くない!」
勝手に部屋に入ってきたあげく、人の部屋でタバコ吸い始めるお姉ちゃん。
ちなみに名前は冬香。
冬に生まれたから冬香で、あたしは春に生まれたから春名。
「もー! 部屋臭くなるからタバコやめてよ!」
「窓開ければいいじゃない」
「自分で開けてよね!」
ふー、と人の顔に向かってタバコの煙を吐きかけるお姉ちゃん。
大げさにそれを手で仰いで、窓を開ける。
「身長が小さいって事は、特技よ」
「さっきも聞いた!」
「さっきも言ったけどね」
そう言いながら立ち上がると、くるっとその場で一回転して、あたしを見下ろすと、
「いーい? 小さい。このミニマムボディ。これは天が与えてくれた唯一無二の魅力なのよ!」
「……」
「ほーら、おかげでこんなに可愛い服だって着こなせちゃう」
「あたしの趣味そっちじゃないし」
「世の中ロリ好き男は多いのよ! わかる? 実際のロリは犯罪! だけど二十歳越えのロリは合法!」
「……で?」
「つまりあたし達の時代なのよ!」
「一緒にしないでよっ!!」
「春名冬香うるさいわよ!」
「……はーい」「ごめんなさーい」
また、ママから怒られた。
確かにお姉ちゃんは結構もてると思う。
昔からしょっちゅう彼氏の話してるし、家に連れて来ることも多い。
大体皆似たようなタイプだけどね。
去年の誕生日には、8人位からプレゼントもらったみたいで、──どれもぬいぐるみ。
しかも、全部でかいの。
だからお姉ちゃんが抱えてると、子供がぬいぐるみにじゃれてるみたい。
──って、それ狙いなんだろうけど。




