春名:隣の部屋の物音
「何にするー?」
「あたしアイスティーかな」
「春名、紅茶好きだよね」
「オレンジと混ぜると美味しいんだよ?」
「あ、それおいしそう! あたしもやってみよ♪」
グラスに半分位まで氷を入れて、好きな割合でオレンジと紅茶を混ぜる。
見た目の色はなんていうかにごっちゃってキレイじゃないんだけど、味が好き。
「ラッキー♪ 部屋、ドリンクバーの隣の隣じゃん!」
「しかも、あたしたちでちょうど満室だったもんね」
「そうそう! 映画は良かったし、カラオケはいい部屋だしさ」
指定された部屋に入って、荷物を置く。
前に来たときは、隣の部屋とかから歌が漏れ聞こえてきたんだけど、今日はそれが無い。
ひどい時だと、部屋の壁に振動を感じたり、凄いうるさい時もある。
終業式だし、満室だし、他の部屋も盛り上がってるかなって思ったけど違うのかな?
「この間さ」
「ん?」
「彼氏とカラオケ行ったら、隣の部屋超うるさくて」
「そういうときあるよね」
「それがさー、マイク使ってケンカしてるの。それが聞こえてきて困った!」
三津屋がはあ、とため息をつきながら言うから、思わず笑う。
「きっと怒鳴り合いしてるうちに盛り上がっちゃったんだろうけど、聞こえてくるタイミング悪くてさー?」
「タイミング?」
「そうそう。ちょうど彼氏が歌い終わった直後に、ヘタなのよあんた! とか聞こえてきて」
「うわ、それはイヤかも!」
「で、あたしが曲選ぶのに時間かかってたら、お前こそいつも同じパターンじゃねえか! とか」
「タイミング悪すぎ!」
「でしょー? 隣のケンカの内容がなんだかわかんないけど、タイミング合い過ぎて笑っちゃった」
──とそのとき、どん、と隣の部屋から音がした。
思わず二人で音がしたほうを見るけれど、話し声も、歌う声も、特に何も聞こえてはこない。
「隣、人いたんだ……ってそうだよね、満室だもん」
「あはは、そうそう。じゃ、せっかくだしうちらも歌いますか!」
「うん──ん、これオレンジちょっと薄かったかも」
まずは一口、と思って持ってきたオレンジアイスティーを飲んでみると、思っていたのよりも大分味が薄い。
氷入れすぎちゃったかな?
「ちょっと追加してくるね」
「OK! それじゃ、たまには違うパターンの曲選びながら待ってるね」
にやりと笑いながら三津屋がそんなことを言うから、あたしもつい、つられて笑っちゃう。
「うん! すぐ戻って来る。そしたらこの間話してた曲、聞かせて」
「じゃあ、春名は一昨日言ってたやつね。一緒に練習しよ?」




