プロローグ
「春名さん、最近何かあったんですか?」
いつもと変わらない、帰り道です。
夏休みを目前に控えてとても暑いのですが、それがまた僕は好きだったりもします。
それはさておき、そんな事を聞いたのは、最近の春名さんの様子が気になったからでした。
「どうしてよっ」
そう言ってほっぺたを膨らませる春名さん。
腕を伸ばして僕の胸元を軽くぽん、と叩きます。
「何となく、元気がないなあと思って」
「別に何でもないもん」
そうは言っても、やっぱり様子が違うような気がします。
いつもならもっとこう、何ていうか元気だし、もっと口数が多いはず。
それなのに、何でもないと言ったきり、口を尖らせて黙ったままの春名さん。
やっぱり、違和感があります。
突然ですが、自己紹介をさせてください。
僕は藤田 春臣といいます。
そして、彼女は喜多 春名さん。
今は16歳で、春名さんとは合格発表の日からのお付き合いです。
僕は身長が191センチ、春名さんが146センチなので、45センチの差があります。
これも付き合う事になったきっかけの一つなのです──が。
まっすぐに前を向いた僕の視界のギリギリのあたり。
そこにある春名さんの頭が、やっぱり俯いているように見えます。
小さくて、肩につかないくらいの長さの髪が、歩くたびにサラサラと揺れています。
何となく心配で、気になって。
同時に、やっぱり可愛いなあと思って手を伸ばしてみました。
「──っ!?」
……驚かせてしまいました。
「すみません、つい」
「つい、何よっ」
「可愛いなあと思って」
「!!」
今度は、顔が真っ赤になりました。
やっぱり、可愛いなあと思ったのでもう一度そうっと手を伸ばします。
柔らかい髪を三度ほど撫でて、手を下ろしました。
「春臣っ!」
「はい」
名前を呼ばれたので、遠慮なくじっと春名さんの顔を見つめます。
小さめの鼻と、大きな目、それからやわらかそうなほっぺた。
じっと見ていると、春名さんの顔が赤くなってきました。
思わず頬が緩んでしまいます。
すると、春名さんが目を逸らしながら言いました。
「……あたしの事、好きよねっ?」
「勿論ですよ」
「な、ならいいわよっ!」
また口を尖らせてそっぽを向いてしまいます。
やっぱり、少しだけ様子が変です。
いつもならその後で、春名さんからも答えが聞けるはずですから。
「やっぱり、何かあったんですか?」
「別に、何もないけどっ?」
「そうですか?」
「そうよ!」
「何かあったら、言って下さいね?」
ふい、と向こうを向かれてしまいました。
でも、口は尖っているのがわかります。
──やっぱり、これは何かがあったんでしょうね。