織田信長(前編) 米粉のベルギーワッフル 豆乳ホイップクリーム添え
障子越しに聞こえる重い足音に、私は顔を上げました。冬の寒気を少しだけ運び込むように、部屋の入口がそっと開きました。そこに立っていたのは、私の夫である羽柴秀吉様だったのです。
「寧々や、戻ったでよ……」
いつも元気いっぱいの秀吉様とは思えない、沈んだ声が聞こえてきました。
秀吉様の顔は疲労と落胆で覆われていました。私は咄嗟に自分の感情を押し殺し、努めて明るく微笑みながら秀吉様を部屋に迎え入れました。
「あらあら、秀吉様、お早いおかえりですこと。これほど早く戻ってくるということは、上杉様との戦はうまくいかなかったのですか?」
秀吉様はへたり込むように座り込み、顔を上げずに呟きました。
「いや……柴田殿と喧嘩をして、帰ってきた……」
その言葉に、思わず目を見開いてしまいました。軍神とさえ呼ばれる上杉謙信との戦いを控えた織田軍で、まさか内部で揉め事が起きるとは夢にも思いませんでした。
それも、私の旦那様がその揉め事の当事者だったのです。
「おみゃーさん、いったいなにしとったっとね!」
驚きのあまり、つい尾張弁が出てしまいました。それでも秀吉様は頭を抱え、肩を落としたままなのです。
「ほんにすまない。だが、柴田殿のなさりように、どうしても我慢がならなかったんや……」
秀吉様の声は沈んでいましたが、その奥には怒りと悔しさがにじんでいます。秀吉様は短く息を吐き出し、話しを続けます。
「柴田殿は上杉軍の動向をろくに調べもせんと、後顧の憂いを残したまま突き進もうとしておる。あの調子では、まず間違いなく上杉軍に柴田殿は負ける。北陸の織田家の軍勢が壊滅すれば、その隙を狙って四方の敵が織田家に押し寄せてくるだろう……」
秀吉様がどれほど織田家の行く末を案じているかは、言葉の端々から伝わってきます。
なぜなら織田家は上杉家以外にも、本願寺、毛利家、武田家と四方に敵を抱えているのですから。
私は、ただじっと耳を傾けました。
「俺が北陸から抜ければ、柴田殿も慎重にならざるをえないだろう。だが、これは信長様の命令ではなく、俺の独断や……」
「オーノー!」
思わず英語でさけんじゃったじゃないですか! このアホタレ旦那が!
秀吉様の顔を覗き込むようにして、怒りと焦りが入り混じった声で詰め寄りました。
「独断専行なんてしたら、信長様に処断されるじゃないですか! あの人、怖いんですよ。何するか分からないんですよ! 近くでお仕えしてきた秀吉様は知っていますよね。このたわけぇ!」
「わかっとる……わかっとるがな。だがな、寧々、こうするしかなかったんじゃ。俺が命を惜しんで、織田家が滅ぶようなことには耐えられん!」
そう言った瞬間、秀吉様の目には涙が溢れ出ていました。
「信長様が亡くなるお姿なんて、見とうない……」
その声はかすれ、空気の中に溶けるように消えていきました。秀吉様の背中は、まるで全ての力を失ったかのようにしおれています。
私は微かに首を縦に振り、大げさに息を吐いてみせました。それから、柔らかい笑みを浮かべながら、冗談めかしてこう言ったのです。
「まったく仕方のない旦那様ですねぇ。でも、わかっていますとも。秀吉様は、信長様のことが好きすぎなんじゃて」
最後に軽くウインクして「私、嫉妬しちゃいますよ」と冗談めかして付け加えるのも忘れない。
涙を拭うことも忘れた秀吉様が、口をぽかんと開けて私を見つめてきた。
「そんなにじっと見られたら、照れちゃいますよ」
私は少し頬が熱くなるのを覚えつつ秀吉様に歩み寄り、そっと肩を抱きしめた。
「大丈夫ですよ、秀吉様。間違いなく信長様は許してくださいます」
「……ほんまかや? 信長様は自分の命令に背く者には容赦がないんじゃぞ。たとえそれがお気に入りの家臣であってもじゃ」
秀吉様は眉をひそめ、戸惑いの色を浮かべながら私をじっと見つめています。
その視線は、「おまえ、一体何を根拠にそんなことを言うとるんや?」とでも言いたげで、困惑が顔にありありと滲んでいます。
そりゃ、困惑もするでしょう。でもね、私は知っているのです。中学の社会科で学びましたから。秀吉様が、いずれ天下統一を成し遂げるということを。
だから、信長様に処罰される未来なんて、あり得うるはずがないのです。
もちろん、そんなことを正直に話すわけにはいきません。
「女の勘ですわ」
ふふふっと笑顔で誤魔化しつつ、意味ありげな表情を浮かべて返しました。
「女の勘、じゃと……」
唖然とした様子で口を大きくあけている秀吉様。その顔があまりに滑稽で、そしてどこか愛おしくて、胸がじんわりと温かくなりました。
「秀吉様、明日は信長様のいらっしゃる安土城に行かれるのですよね。ぜひ私もご一緒させてください」
丁度いい機会ですので、カステラのお礼に新しいお菓子を信長様に献上しちゃいましょう。
「私が信長様のお気持ちを和らげておきますので、秀吉様はその後、しっかり謝罪なさってくださいませ」
ふふんっと胸を張った私を見たからか、沈んでいた秀吉様の顔が少し明るくなったように思います。
その瞬間、私もまた、少しだけ未来が開けたような気がしたのです。
本作品はカクヨムで短編コンテストに応募しています。
1万字を超えることができないため、続きはコンテスト後になります。
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「え~っ、どうしよっかな~ チラッチラッ」と迷われている方がいましたら、ぜひ次の文をお読みください☆彡
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参考として本作品のカクヨム掲載URLです。
https://kakuyomu.jp/works/16818093089877377868