reincarnation
うわぁ…素敵なお店
シックで落ち着いた店内の個室には瞳に優しいキャンドルが灯りソファタイプの椅子は
座るとふわふわで心地いい
「 ようこそいらっしゃいませ。樹莉、久しぶり 」
ブロンドの美青年がトレーにレモン水を載せニコニコして佇んでいる
「 やあ…ヒロ…さっそく頼むよ 姫がお腹を空かしていてね 」
「 はじめまして。お姫様、オーナーの山田ヒロです。樹莉とは幼馴染でね…どうぞゆ
ったりとお寛ぎください 」
綺麗なひと…あれ でも…このひと何だか知っているような…ひどく懐かしい気がする
…あれ?
突然 涙が溢れてきた
やだ、どうしよう…変な人だと思われちゃう…
「 変わりませんね…では、ごゆっくり… 」
オーナーは優しくて感じのいい
ふと樹莉の人差し指が私の涙を拭ってくれた
「 僕と会った時は泣かなかったのに…妬けるね… 」
「 違うの、そんなんじゃなくて…自分でもなんだかわからないけど涙が… 」
「 きっと お、お腹空きすぎたのかも… 」
とんちんかんな言い訳に笑う樹莉
あ…どうして…この人はこんなに優しいんだろう
会ったばかりの私の好みも身体のサイズも何もかも知っていて…
「 大切だから… 」
え……いま、大切って言った?
「 言ったよ… 」
右手の指をキュッと握られ切なげに見つめられる
どうしよう…また涙腺が……
彼は席を立つと隣に移動して座りハンカチで涙を拭きながら優しく頭を抱えてくれる
だめ…だ…
我慢出来なくなり彼の胸で泣いてしまう
こんなに泣いて私、どうしちゃったの
生まれつきクールでめったに泣かないのに
この人といるとなんだかわかからない懐かしさがこみあげてきて…ああ…どうして離れ
ていられたんだろう…
こんなに恋しかったのに…
「 ジュリアン… 」
無意識にその名を呼ぶとふいに唇を塞がれる
涙がとめどなく溢れて彼の唇をつたう
「 アーシャ… 」
優しく瞳にキスをされ…ようやく落ち着いた私は彼の腕のなかでぼんやりと思い出す
彼と愛し合い結婚して とても甘やかされ大切にされていたのに彼が仕事で数日、留守
にしていた間
寂しくて気晴らしに乗馬をしようと馬に乗り走っていたら落馬して…打ち所の悪かった私はそのまま
…
そうだ…この人を置いて…独り置いたまま 二度と帰らぬ人になってしまった
「 思い出したようだね…僕はきみを失って正気を失くした…この世でたったひとつの
宝物 」
「 やり場のない悲しみと怒りで悪魔を召喚して契約したんだ… 」
召…喚…?
「 じゃ、じゃあ、魂と引き換えに? 」
「 きみの好きなVampire…とは違うけどね… ノスフェラトゥとなりきみに出逢える
まで永遠の時を彷徨うことになったんだ 永い永い間…気が遠くなる孤独の中できみが
生まれてくるのを待ち続けた… 」
そんなに永い間…たった独りで 私を待っていてくれたの…
「 ジュリアン…! ごめんなさいっ、ごめんなさい…独りにして…そんなに永い間、あ
なたを独りにして私… 」
謝る私を強く抱きしめると彼は唇を重ね…私達は気の遠くなるような激しい口づけを交
わす
何度も何度も…
まるで離れていた時間を取り戻すかのように……
「 やっと…! やっと見つけた…どれだけ会いたかったか…… こうして抱きたかった
か… 」
「 ジュリアン…連れて行って…あなたの世界へ… 」
「 いま一度…わたしの妻になってくれ…未来永劫に変わらぬ誓いを… 」
彼はそう囁くと私のうなじにキリリと歯を立て 奥まで深く食い込ませる
嘘つき…Vampireじゃないって…言ったのに…
頭がぼおっとして…何もわからなくなっていく…
気付くと私は一心不乱に彼の胸に口づけして脈打つ命のリズムを味わっていた
翌日…
人間として暮らしていた時の両親と姉の記憶から私の存在は消され記憶の彼方に忘れ去
られた
渋い暖かみのあるボルドーカラーの煉瓦で囲まれたお屋敷で私は彼と庭園の薔薇を見な
がら腕を組んで散歩している
「あのね…今さらなんだけど…」
「 うん? 」
「 あの夜に食べ損ねたハンバーグとステーキ食べたい… 」
彼はキョトンとすると大声で笑いながら
「 ヒロなら来てるよ…今夜 好きなだけ食べるといい 」
「 やあアーシャ♪ 今朝方こいつに呼ばれてね… 今夜は存分に腕を振るうからお楽
しみに 」
「わあい♪ たくさん食べるからね、おにいちゃん 」
ウインクする兄のヒロを見て私のお腹が反応した
※※おしまい※※
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紳士淑女の皆さま 最後まで読んで下さりありがとうございます
突然、真夜中に脳内に降臨するかの如くストーリーが浮かんで出来た作品です