歌う為には
一人では歌う勇気を持てない俺は昔からの友人を誘った。
彼女の名前は「あい」
人前に出ることにもプレッシャーを感じず、
堂々とできる唯一の友人だ。
カラオケにもよく行くと言っていたし、
誘うと二つ返事で了承してくれた。
翌週の週末、さっそく駅の地下道に向かった。
前回同様にギターを開きチューニングをし音を出してみる。
やはり前と同じように道行く人がこちらをチラチラ見ていった。
でも今回は一人じゃない、周りが気になってもあいと話し気を紛らわせた。
さあ、準備は整った。
二人で曲を決めストリートミュージシャンからプロになった、
あの二人組の曲を歌おう。
『駐車場の猫は~♪』
あいは物おじせず十分な声量で歌いだした。
それを聞き負けてられないと俺も大きな声を、、、
出せずにもごもご歌うフリ。
男女の組み合わせが珍しいからか、それともあいの歌が
自信を持ち堂々としているから人が数人止まり始める。
二人組の歌なのに全てあい任せ。
パチパチパチ。
歌が終わった。
それと同時に言い訳を始める俺。
「やっぱ初めては"緊張”するな~、あい、次は何をやる?」
最高にダサい男子高校生の出来上がりであった。
ちょっと聞いては去っていくを繰り返し、
気づけば一時間がたっていた。
「薫、歌うの?歌わないの?どっち?」
あいは怪訝な顔をしながら聞いてきた。
「歌います、次こそはちゃんと歌います」
俺はそう答えた。
人がいなくなり人通りがなくなったところを見計らって俺は声を出した。
そしてその時改めて気づいた。
高いキーは出ない。
そしてやっぱり俺は歌が下手なんだと。。
結局その日は3時間ほどそこにいたが
そのほとんどをあいに歌わせた。
俺はといえば音がズレるたびにコーラスをしようとしたとか、
歌詞を間違ったとか言い訳をして。
家への帰り道、空を見上げながら思った。
今まで歌ってこなかったからなのか?
これから毎日ギターを弾きながら歌おうと。
そこからの3週間はまさに怒涛だった。
学校から帰るとギターを弾き歌い続ける。
そんな日々を送った3週間目の土曜日、俺はまた地下道に来ていた。
そしてギター準備しチューングをおこなう。
いつものルーティンだ。
そしてやはり周りの人気が去ってから、、、
そっと歌いだした。