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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

7/17の夢

作者: マッハ✖

 見知らぬ駅にいた。ホームからは立ち並ぶ雑居ビルが見え、繁華街に位置した駅であることがうかがえる。どこかの都会だろうが、遠くには山々も見える。ここはどこだろうか。分からない。

 停車していた電車のドアが開き、中からぞろぞろと人が吐き出される。東京の満員電車ほどでは無いが、それなりの利用客がいるようだ。決して広くはないホームの人口密度が増してゆく。

 電車から降りた人々は二手に別れて歩いていく。ホームの中央にある階段を登り、中央出口へと向かう人々。または、ホームの端にある階段を下り、地下鉄へと向かう人々。後者のほうが少ない。

 俺はなんとなく、本当に気まぐれで地下鉄のホームへ続く階段へ向かった。あまりキョロキョロしては不審がられると思い、勝手知ったる顔で歩くが、内心は不安だった。

 そのとき、正面から小柄な男が近づいてきた。緑色のジャンパーは所々が擦れて汚れている。深く被ったフードから覗く、生気が無いのにギラついた目が、明らかに彼が「危ない奴」であることを物語っていた。

 周りを見渡す。スーツを来ている人がほとんどだ。新聞やコーヒーを持ち、出勤中であるようにも思える。映画で見たニューヨークのオフィス街の風景が思い出された。

 奴が異質な存在であることはすぐに分かった。君子危うきに近寄らず、と視線を戻したときに、奴とぶつかった。

 突然のことですぐに言葉が出なかった。すみません、の一言でも絞り出せれば何か違ったのだろうか。

立ち止まった奴は俺をまっすぐに見つめ、はっきりと言った。

「地下鉄に乗れ。逃げろよ。殺してやるから。」


 普通の人は振り返って全力疾走するだろう。だが俺は、わざわざ奴の横を通り抜け、階段を降りた。

なぜそうしたかは分からないが、奴の言う「地下鉄」という言葉がやけに耳に残った。

薄暗い階段を1段飛ばしで駆け下り、その勢いのまま最後尾の車両に乗り込んだ。

 地下鉄の中は思いの外混雑していた。追いかけてきている様子は無いが、乗客に紛れ込まれるとすぐには気付けないだろう。地下鉄の乗客は、上にいた人々と比べ、みすぼらしい格好をしている人が多かったからだ。

 人の隙間を縫って1つ前の車両へ移動する。人の隙間を縫って移動する。振り返る。奴の姿は無い。連結部分を越え、もう1つ前の車両へ。そこでドアが閉まり、地下鉄が動き出す。

 ゆっくりと前の車両へ移動し続ける。まさかこんな人の多い場所で襲って来るとは思えないが、周りを警戒する。

2、3分が経っただろうか。いつの間にか電車は地上を走っていた。「地上を走る地下鉄」があるらしいが、この路線もそうなのか。風景は先程よりも自然豊かでのどかな風景に変わっていた。

 すぐに停車駅のアナウンス。こもっていて聞き取れない。周りの風景とミスマッチの大きな駅についた。電車を降りて改札を抜けると、ガラス張りで、吹き抜けになったきれいな駅だった。

 乗り換えの案内板を見る。複数の路線が乗り入れているようだ。文字が滲んでいて読めない。が、知らない駅名ばかりなのはなんとなく予想がついた。

 案内板のおそらく現在地を示しているであろう赤点から、線をたどって南に目をやると、見覚えのある線路の形。家に帰れるかもしれない、と直感的に思った。5駅ほど乗って乗り換え、更に3駅ほど乗れば最寄り駅、のはずだ。

 改札は、今しがた抜けたものとは別の位置にあるらしい。広い吹き抜けを歩く。人は多いが、建物も大きいので、密集している感じは無い。

 エスカレーターを見つけ、乗る。かなり長めのエスカレーターだ。


 エスカレーターが間もなく終点、というところまで来たとき、腰のあたりに固いものが当たった。

「死ね」と聞き覚えのある声。振り返るとサプレッサー付きの拳銃を構えた「奴」がいた。

 彼は確かに発砲した。銃弾は右腰をかすめたはずだったが、横っ腹をつままれた程度の痛みしか感じなかった。

 エスカレーターが到着した。もみ合いになり、地面に倒れる。格闘技の経験など無いが、小柄で痩せ型の奴はあまりにも非力で、取り押さえるのは容易であった。

 倒れたまま後ろから抱きつき、左手で首を押さえ、両足で相手の足を挟んだ形になった。唯一自由の効く右手で近くに落ちていた奴の拳銃を拾った。

(どう考えても寝技としては不完全だが、奴は動けなくなっていた)

 PMMに似たサプレッサー付きの拳銃からマガジンを抜き、すぐ近くにいた子供に見せる。

「何発入ってる?」

 子供は物怖じすることなく6発!と答えてくれた。

 もがく奴を取り押さえながら、片手でマガジンを入れ直す。


(このとき、マガジンをグリップの下からではなく、排莢口から入れたのが印象に残っている。)


「誰か通報して」と叫ぶと、遠巻きに見ていた野次馬の一人がめんどくさそうにスマホをいじり始めた。

 こんな大騒動が起きているのに、みんな冷静だな、と思った。


マガジンを入れ直した拳銃を奴のこめかみに当て、引き金を引いた。

地下鉄を降りてからエスカレーターに乗るまで、案内板を見ている時間は、文字で読むよりもかなり長い時間だった。夢特有の間延びした時間の流れ。

その間は完全に「知らない場所から帰る」というストーリーの夢になっていた。

ところがエスカレーターに乗ったとき、「追われている」という伏線が回収され、「ヤバイ奴から逃げる」というストーリーに軌道修正された。

「夢の中の私」ですら忘れていた設定を「夢を見ている(寝ている)私」がきちんと覚えていたことに、ある種の感動を覚えた。

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