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彼の絵

作者: 雉白書屋

 科学技術の発展により、高度なAIとそれに見合う頑丈かつ繊細な作業が可能なボディを持つアンドロイドが世に出始めてから数十年。彼らは仕事だけでなくスポーツや芸術など、あらゆる分野に進出した。

 人々は最初、彼らの躍進に嫌悪感を抱いていた。しかし、『いいものはいい』『アンドロイドだからといって、正当な評価をしないのは差別だ』『負け惜しみはみっともない』などという、どことなく何者かに扇動されたような世論と作られた風潮に次第に押され、今では絵の分野でも人間は彼らアンドロイド画家たちに取って代わられていた。

 前述の通り、初めはアンドロイドが描いたものなんて……と言われていたが、短時間で描き上げる似顔絵という域を越えた肖像画に始まり、やがて彼らが描く絵が金になると見た者たちのブランディングにより、瞬く間に人気画家が次々と誕生した。アンドロイドであるため、幅広い画風で描くことが可能だが、他のアンドロイド画家、もといそのプロデューサーと示し合わせ、それぞれ画風を統一し、彼らは現代に蘇ったピカソ、ゴッホ、モネ、ダ・ヴィンチなどといった異名とキャラクター性を持ち、衆人の支持を得ていた。

 それを愚かだと吐き捨てた、ある人間の画家がいた。彼はまったくの素人ではないが、売れていない上に落ち目でもある。

 もはや『温かみがあるね』『人間にしか出せない味があるね』『創作過程があるのがいいね。AIの短時間でパパッとじゃあ味気ないよ』などといった人間が肩を持たれる時代はとうに過ぎ去っている。

 筆を折る人間の画家が後を絶たない中でも、彼は諦めずに芸術に向き合い続けた。しかし、彼が描いた絵は人々から見向きもされず、心無い者たちから『AIによると、この部分が変だって』『AIに描き直してもらったら?』などと言われることもしばしばあった。

 それでも彼は挫けなかった。認められる日が来ることを信じ、自分を信じ、神を信じ、悪魔を信じ続けた。そして、ある日……。


「そうか、そうだ……ふふふふ、これは連中には描けないぞ。ふふふふははははは!」


 それは果たして啓示だったのか。自分という存在の証明、己を体現、作風の確立。彼は自分史上最高傑作と呼べるものを描き上げ、それをコンクールに出した。しかし、その後も彼は休むことなく二作目、三作目と、取り憑かれたように描き続けた。そうしなければ、何かを失ってしまうかのように怯えて。

 そして、コンクール当日。会場で彼は自分の絵の前に立ち解説役を担った。アンドロイドたちによる精巧な絵が並ぶ中、彼はその日、最も注目を集めることになる。


「ねえ、ちょっと……」

「あの絵の」

「あの人……」

「倒れたぞ!」

「救急車呼んだ方がよくない?」

「誰か、係の人は!?」


 人だかりの中で、彼は満足そうな笑みを浮かべながら床に横たわった。

 彼が知ることはなかったが、彼が描いた絵にはなかなかの値がついた。それは、彼が死んだことにより。

 アンドロイドには決して描けないと評された彼の絵には、彼の血が大量に使われていたのだった。

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