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真昼の星を結ぶ  作者: ばやし せいず
第1章 内緒の子ども
8/50

8 脱走

「せんせー!」

「な、なんで……」


 通路に顔を出したが、スカイの姉である野田海頼(みらい)の姿はどこにも見当たらない。スカイはきょとんと首を傾げた。


「あそびにきてって、せんせーがいったんでしょお?」


――遊びに来ていいよ。


 そうだ。

 野田とスカイを家に送り届ける途中、確かにそう言った。

 半分は本心だが、もう半分は社交辞令のつもりだった。それに今日さっそく来ていいだなんて言っていない。

 言っていないが、年端のいかない子どもが理解できるわけがなかった。


「せんせーのおもちゃ、みせて!」

「うちにはおもちゃなんて無いよ。なあ、姉ちゃんは? まさか一人で来たのか?」

「おねえちゃん、ねてる! おもちゃ、ほんとはあるんでしょ? どこにかくしたの? おかえりーっ!」

「あっ! 待てっ!」


 スカイは靴をぽいぽいと三和土(たたき)に脱ぎ捨て、家の中に許可なく侵入してしまった。


「あれー? おもちゃがない~」


 慌てて後を追い、きょろきょろとリビングを見回しているスカイの両肩をつかんだ。


「スカイ、姉ちゃんが寝てるって、具合が悪くてか?」

「シンドーイっていってた。おねえちゃん、シンドイときはテレビみせてくれるんだけど、つまんなくなっちゃったから、つまんないから、ひとりであそびにきたの!」


 スカイはつま先立ちしたり四つん這いになったりして、おもちゃを探そうとしている。

 このわんぱく小僧が外に飛び出していったことに気付かないほど、野田はしんどいらしい。まさか倒れて意識を失っているのではと不安になってきた。


「ほんとに、おもちゃないんだねえ」

「無いってわかっただろ。家に帰るぞ」


 ごねるかと思ったが、スカイは素直に「はーい」と返事して玄関に戻ってくれた。幼い子どもが楽しめる物なんて我が家には一つも無いから、見切りをつけたようだ。


 逃げられないようにスカイのぷにぷにした手を握り、エレベーターで再び十三階に向かう。野田の家のインターフォンを押した。返事を待つより早く、スカイが玄関に入り靴を脱いだ。


「おねえちゃん、ここでねてる」


 玄関を入ってすぐ右のドアが半分開いている。電気はついていない。二○一号室も同じ位置に洋室があり、俺の寝室となっている。


 ごくりとつばを飲み込んだ。

 一応ではあるが、野田は教え子だ。教え子の家に勝手に上がり込むわけにはいかない。

 しかし、人命が最優先。

 野田が生きているかどうか確認しなければ。

 後ろめたい気持ちを打ち消すために自分に強く言い聞かせる。


 靴を履いたまま廊下に膝と手をつき、野田が寝ているという部屋のドアの内側をそっとのぞいた。

 自分の寝室よりやや狭い洋室の床に布団が敷かれ、その上に野田が横たわっている。頭には氷嚢(ひょうのう)が添えられていた。


 目を凝らす。

 薄い掛け布団を被った彼女の体が規則正しく上下しているのがわかった。玄関の照明の光が寝顔に当たっているが、眩しがる様子もない。


 よく寝ているだけのようだ。

 ほっと胸を撫で下ろす。

 救急車を呼ぶことになるかもしれないと思い、要請した際の段取りを何度も頭の中で組んでいたのだが、徒労に終わってくれた。


「寝かせておいてやろう。ドア、そーっと閉めて」


 スカイに耳打ちすると従ってくれたが、「こっちきて」と言って奥へ消えてしまう。

 自宅とはいえ、一人で放っておけるような年齢ではない。このくらいの子どもは数秒後に何をやらかすか予想できない。ついさっきも、自宅を脱走して他人の家に侵入したばかりだ。


 気が引けたが、やむを得ず野田家にお邪魔することにした。


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