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真昼の星を結ぶ  作者: ばやし せいず
第3章 星の世界
48/50

48 いつくしみ深き

 美術教師として教壇に立つようになってから、判明したことがある。

 船渡川や野田の歌っていた鼻歌は童謡の「星の世界」ではなくて、「いつくしみ深き」という讃美歌らしい。

 「星の世界」は、「いつくしみ深き」の替え歌なのだと、船渡川を含むハイレベルコースの生徒たちが笑いながら教えてくれた。

 各学校の卒業式では「大地讃頌(だいちさんしょう)」が選曲され、全国の「大地くん」がいじられるものだとばかり思っていたのだが、藤ヶ峰女学園のようなキリスト教系の学校では「いつくしみ深き」が歌われることが多いそうだ。



「――千葉先生、結婚するんですか!?」

「相手の写真見せて!」

「先生、仕事と家事の両立できなさそう」

「あのなー、こういう時は思ってなくてもまず『おめでとうございます』って言うもんなの。それに俺は意外と家事できるし」


 小学生に毛の生えたような少年少女たちが「おめでとうございまーす」と声を揃えた。


「ほら、混むんだから、早く食堂に行きな」


 美術室から中等部の生徒たちを追い払い、鍵をかけようと思ったらまだ男子生徒が一人残っていた。


「あー、皆に言いたい。姉ちゃんと大地兄ちゃんの恋のキューピットは僕なんだって」


 ぶかぶかの夏服をきた澄空の声は、二次性徴のためにかさついていた。


「その話、絶対にするなよ。噂に尾ひれがついて『千葉先生は教え子に手を出した』なんて勘違いされたら最悪クビだ。あと、学校では大地兄ちゃんじゃなくて先生な」


 新婚で路頭に迷うことだけは避けたい。


「でも、本当に高校生に手ぇ出したんじゃん」


「ちげーよ」


 教師らしからぬ言葉遣いだが、本当に違う。


 野田海頼と再会したのは、彼女が引っ越した日から数年後の冬の祝日だった。


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