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真昼の星を結ぶ  作者: ばやし せいず
第3章 星の世界
44/50

44 デネブ

 涼真に誘われ、駅前の居酒屋に入った。イケメンは目をとろんとさせながら三杯目のビールを注文し、そこでようやく「新人賞、だめだった」と打ち明けた。


 だろうな、と思った。

 涼真がサシで飲もうと誘ってくるタイミングは、決まって新人賞の結果が出た後だ。


「大地は就職先決まったのかよお」


 かなり酔いが回っているらしく声が大きい。ほとんど怒声になっている。安い店で、他の客も張り合うように大声を出しているし、店内には姪っ子が好きそうな曲が爆音で流れているので、誰も気にしない。


 藤ヶ峰の二次試験を受けたら生徒役として指導教諭が現れたこと、無事にその試験を通過したことを報告する。

 涼真は「藤ヶ峰? おまえ、まだ教育自習してんのか?」と言ってジョッキを空にした。


 千鳥足の酔っ払いを支えながら外へ出る。脇道から商店街を出て、公園のベンチに涼真が寝そべった。船渡川が「スカートが汚れる」と言って座らなかったベンチだ。


「見えないな、星」


 今日も曇りだ。風が強い。薄い上着が欲しくなるような気温だった。

 台風が接近しているのだと、母が観ていたニュース番組でアナウンサーが言っていた。もしかしたら明後日あたり、大学も休校になるかもしれない。


「夏の大三角のデネブっていう星、知ってるか。尻って意味なんだぜ」


 悪酔いした涼真が「あー? 星い?」と唸る。


「おまえ、ビギナーだなあ。天体観測したかったら七月中に必死こくのよ。八月になって月が出たり台風が来たりしたら見えなくなるから。自由研究で『夏の大三角を観察する』って宿題ができなくなって小学生の時に号泣したから俺はもうベテランよ」

「あの頃は俺たち、かわいかったよな」

「俺は今もかわいいだろーが」


 涼真が寝台代わりにしているベンチを見下ろし、船渡川との会話を思い出した。


「あのさ、菊池のことだけど」

「菊池? うっわ、懐かしい。何してんだろうな、あいつ」

「漫画のこと、ごめんな」


 どうせ酔っ払いに言っても無意味だろうなと思いながら、短く曖昧に謝った。


「大地が止めに入ったら白けてただろ。放っといてくれてよかったよ」


 涼真は目を開けていた。眠そうだが口調はやけにはっきりしていた。


「そんな話、もう忘れたし」


 涼真は立ち上がり、ふらつきながら商店街に向かって歩き出した。

 本当に忘れていたのなら「漫画」というキーワードだけでピンとこないだろうがと思ったが、黙って隣を歩いた。


「……大地は漫画のことも、化粧のこともいじってこないな」

「別に興味ないもん、おまえのことなんて」


 がははと口を開けて涼真は笑う。


「別にいじられてもよかったんけどさ、大地なら。でも大地だけはいじってこないんだよな」


 シラフだったら出てこないであろう台詞を聞いた気がする。


「涼真、俺のことが好きだったのか?」

「馬鹿じゃねえの」


 涼真に思いきり尻を蹴られた。

 「このデネブが」と蹴り返してやった。


「デネブ? 夏の大三角の?」

「デネブって、尻って意味なんだって」


 酔っ払いにもう一度同じことを教える。


「めっちゃ悪口っぽいな。デネブって」

「ケツだぜ、ケツ」

「洋画の台詞で出てきそうだな」


 人気の無い商店街で、涼真と一緒にげらげら笑った。

 笑いすぎて、デネブから罰が当たりそうだった。


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