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真昼の星を結ぶ  作者: ばやし せいず
第3章 星の世界
43/50

43 いびつな点つなぎ。こじつけの星座。

「すみませーん!」


 朝、マンションのエントランスで頭を下げたのは引っ越し業者たちだった。額に汗を浮かべながら壁や床を養生で覆っている。


 夕方に大学から帰ってくると、マンションの前にとまっていた大型トラックは無く、養生も全てきれいに剥ぎ取られていた。

 ポストを開ける。

 そろそろ藤ヶ峰から二次試験の結果が届くはずで、エントランスに立つ度に郵便物を確かめている。


 目当ての郵便物は無かったが、不動産屋のチラシの下に差出人不明の封筒が隠れていた。

 表に「千葉先生へ」と書いてある。チラシをゴミ箱に投げ速足で家に帰り、自分の部屋で封筒を開いた。


 封筒の中には折りたたまれたコピー用紙が数枚入っている。澄空がやったと思われる、めちゃくちゃで、しかし最後まで一生懸命やったことが伝わる点つなぎだった。


「ちょっと上手くなってるじゃん」


 相変わらずいびつだけど、三十まで間違えることなく線が引けるようになったようだ。


 サイズの異なる紙をもう一枚発見した。

 点つなぎではなく、ミミズのような黒い線が何本も走っている。澄空が似顔絵のつもりで描いてくれたのだろうと思うと笑えてきた。

 小さな手にペンを握る姿を思い出す。「せんせー、きらい」と言われたのが最後になってしまった。


 部屋のクローゼットを開ける。

 点つなぎと似顔絵は、本当は壁に飾りたかった。しかし澄空が使っていたようなペンのインクは光が当たると劣化して色が薄くなってしまう。


 クローゼットの中の高校の卒業アルバムを取り出して挟み、奥にしまった。いつまでも大切にしたかった。


 窓の外をのぞく。空全体を厚い雲が覆っていた。雲の中にビルの明かりがこもって、日は完全に沈んでいるのに暗く感じることはない。


 星と星を結んで無理やり物語を作り出すことは、ここでは不可能だった。この街で暮らしていると、雲の向こうに星があるなんてこと自体が疑わしくなってくる。


 星の話をしてくれた野田海頼は実習中に出会った教え子で、未成年。


 いびつな点つなぎ。

 こじつけの星座。


 そんなものすら自分たちには描けない。


 結ばれることのない点と点だった。


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