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1 プロローグ
少女が真夜中の商店街を駆けていく。
大きな荷物を抱え、なにかから逃げるように。
家出だろうか。あのくらい年齢の子どもにはよくあることだ。
酔っ払いの俺は勝手に納得して頷いた。
「頑張れよー」と心の中で声を掛けてから気が付く。商店街のカーブの先に消えた少女が抱きかかえていたのは、荷物ではなくて小さな子どもだった。
今日、実習先の高校で耳にしたばかりの妙な噂を思い出す。
――野田海頼って、隠し子がいるらしいよ。
踵を返し、少女の後を追った。
アルコールが抜けていないせいで、走ると頭ががんがん揺れる。
さっきの少女は、噂されていた野田海頼ではなかったか。そう思うと胸がどんどんと鳴る。
カーブを曲がった。真っ直ぐ先に商店街の出口が見えている。
誰の姿も無い。商店も全て閉まっていた。
……歩きながら寝ていたんだろうな。
泥酔した自分が先ほどの光景を夢だと思い込むのは、そう難しいことではなかった。