第25話 八月の星と夏の終わりに 前
「ゆーくん、星を見に行こうよ」
冷房がきいた部屋でゲームをしていたら、無遠慮に入ってきた銀千代がほざいた。
「お前は何を言っているんだ」
勝手に知らない物語始めんじゃねぇ。
「だって最近恋人らしいことなんにもしてないんだもん」
最初からしてない気がするが。
頬を軽く膨らませた銀千代は媚びるように俺をじっと見つめてきた。
「もっとゆーくんとイチャラブしたいな。世界中のカップルが憤死しちゃうような甘くてとろけるイチャイチャを」
「めんどくさいから、パス」
「じゃあ銀千代のターンね。ゆーくん、星を見に行こうよ!」
ずっと銀千代のターン。
「パスってのは行かないって意味だ。めんどくさいんだ。それによ、見れば分かるだろ、今忙しいんだ」
カチャカチャとコントローラーのボタンを連打する俺に銀千代は唇を尖らせた。
「ピコピコは暇な人しかやらないんだよ」
黙れ。
「ゲームで忙しいの。それに夜中に行動すんの嫌なんだよ。次の日に響くだろ。そんな時間があったらゲームするか寝たいよね」
「じゃあ、次の日がお休みの日に行こうよ。そしたら一日のんびりできるから問題ないよね。疲れたらホテルで休憩すればいいじゃん。というか星よりもホテルで休憩したいよね。そうだ! ゆーくんホテルで休憩しない」
「しない。勝手に休んでろ。用がないなら帰ってくれ。これからボス戦なんだ」
「ゆーくんのばかぁ!」
銀千代は叫んで出ていった。やっと静かになった。やれやれだ。
ようやくボス戦前の一息つけるタイミングが訪れたので、俺は立ち上がって玄関に行き、ドアの鍵を閉めた。
これでしばらくは邪魔されずにすむ。
商人から必要なアイテムをいくつか購入し、よし、じゃあ行きますか、と気合を入れなおしたタイミングで、ガチャリと鍵が開いて、銀千代が家に入ってきた。そうだった、こいつ俺んちの鍵持ってるんだった。
「ごめん、ゆーくん、ばかは言いすぎた」
それより先に謝ってほしいことがたくさんがあるが、もうめんどくさいので無視だ。
「怒った?」
そういうセクションは疾うの昔に過ぎ去った。今あるのは虚無。なにも感じない。ただの恋人で幼なじみ。それ以上も以下もない。
俺の操作するキャラがボスに向かってダッシュする。
「ごめんなさい、ゆーくん。銀千代、頭に血がのぼってしまって、ゆーくんに対してあんな酷い言葉を吐くなんて……幻滅したよね。最低だよね」
「……」
「バカなのは銀千代のほうなのに。ゆーくんの気持ちを考えないでいきなり星を見に行きたいなんてまったく駄目なお嫁さんだよね。本当はね、星なんかどうでもいいんだ。ゆーくんとイチャイチャできればそれでいいの。ゆーくんと星を見るのは、それはもうロマンティックだと思うけど、銀千代にとっての一番星は常にゆーくんだから、隣にゆーくんがいたら、太陽だって霞んでしまうくらい輝いてるの」
「いまボス戦だから静かにしてくれる?」
「うん。……」
こいつのいいところは俺の意見はちゃんと聞いてくれるところ。
数分後、なんやかんやでボスを撃破した俺は上機嫌に肩のこりをほぐした。此度の遠征もまた存分に心躍った。
「よし、やっと鉄の目の操作にも慣れてきたぞ。次は復讐者でやってみるか」
「ゆーくん、もうしゃべっていい?」
正座していた銀千代が胸の前で小さく手を挙げた。忘れてた。
「おお、いいぞ。悪かったな。ちょっと手が離せなくて」
「うん、ありがとう。大好きだよ。今日もかっこいいゆーくんのプレイで世界が救われたね!」
「たしかに俺のアーツで仲間二人生き返らせたところは本日のファインプレーだったた」
俺はゲーム機の電源を落とし立ち上がった。
「そんじゃ、準備するか」
「え、なんの準備?」
「出かけるんだろ? さすがに外出るのに寝癖くらいは直さないとな」
「ホテル行ってくれるの!?」
「そっちじゃねぇよ」
星を見に行くんだろ。




