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「よし、着いたな」
「じゃあ、ここからは単独行動で行きましょう」
「分かったぜ」
・・・あいつらはどこかに行った。俺は、ビル街のほうへ向かった。だが、行こうとすると・・・『昔の職場』が目に入った。
「・・・ここはまだあったか・・・」
あって当然だ。東京ではトップを争う銀行だからな。そう簡単に破綻するはずはあるまい。
「・・・俺のマンションは・・・」
妹と二人暮しだった。・・・もうあいつも嫁に出た。
俺がいない今、もう売り払われているはずだ。・・・そう思い、俺はマンションへ向かった。
部屋には・・・まだ、ネームプレートがついていた。
「変だな・・・」
ドアノブをひねると、開いた。
「だ、誰ですかッ!?」
と、女性の声がした。だが、彼女は俺の姿を見ると、・・・安心したというか、・・・泣き出した。
「おにぃちゃああぁああんッ!!」
「・・・引っ付くなよ」
「ひっく・・・だってぇ・・・」
こいつが俺の妹だ。極度のブラコン。まぁ昔から、俺と二人暮しだったからな。
・・・俺と妹は、孤児院で育った。親は、俺が3歳のときに生まれたばかりの妹を残して、消えた。
そして、俺が18歳、妹が15歳のとき、俺は妹を連れてそこを出た。・・・あまり居心地がよくなかったからだが、出て行くとなると少しむなしくなった。
俺は、妹を養っていくために、寝る間を惜しんで猛勉強した。そして、あの銀行に勤めた。
・・・だが、妹に好きな人・・・将来を誓いあいたい人ができたと聞き、・・・哀しかった。
・・・妹を護るのは終わりだと思うと・・・心が苦しくなり、俺は、飛び出した。
俺は忌むべき力を持っていたのに、その目的のために生まれて来させられた。妹を護るためだけに、これまで生きてきたのに、その役目が終わってしまった。
・・・だから、俺は・・・終わらせようと思った。全部、・・・投げ出そうと思った。そして、俺はマンションの屋上へ行き、柵を乗り越え・・・頭から、落ちていった・・・。
え? 何で生きてるかって? だからよ、『生かされた』って言ってただろ? これで理解したか?
「ところで・・・そのガキは何だ? ・・・もう、生まれたのか?」
「そんなんじゃないって。降ってきたのよ」
「・・・降ってきたァ?」
「・・・あれ? おい、三千重、この男は誰だ?」
「忘れちゃったの? お兄ちゃんよ」
「・・・む、むむぅ・・・・・・あ、思い出した。龍醐さんだっけ?」
「そうだ。おいおい、兄貴のこと忘れちまったのかよ?」
「それはあんたが勝手に言っただけだ」
「あ、兄貴に向かってあんたは何だ!」
「落ち着いて、お兄ちゃん・・・」
・・・で、その降ってきた少年について話を聞いた。・・・嘘っぽい。
「・・・嘘じゃねぇのか?」
「姉御も言ってたぜ。でも本当のことなんだ」
少し顔をしかめて、俺は方舟と名乗る少年の頭をこつんと叩いた。
「お前、本当の事言ってんのか?」
「ほ、ほんとだよ・・・」
「まぁまぁ、落ち着いて」
「ところでお兄ちゃん、何してたのよ?」
「それはだな。えぇと・・・世界の平和を守るために―――」
「冗談はよしてください。まじで怒りますよ」
「ほ、本当なんだぜ? 確か、標的はこの日本だ」
目を覗き込む。そんなんで真実が見抜けたらこいつは神だ。
「・・・謎の場所にいた・・・か」
「でぇッ!!?」
こ、こいつ・・・本当に見抜きやがった!!
「・・・なんて冗談ですよね」
・・・ゑ? いま・・・揺すったのか?
「あなたの想像通り、俺にはそんな能力はありませんよーだ」
「こ、こいつ、はめやがったなッ!! 三千重! こんな奴とは離婚しろッ!!」
「な、何よ!?」
「・・・まぁ、いまので本当の事だってことは分かりました。こうでもしないと分からないですし」
「それを言ってからやれよ!?」「言ったら揺すった事になりませんよ?」
「二人とも落ち着いて!」
・・・で、三千重が俺と奴に張り手をかまし、何とか口喧嘩は終わった。
「・・・すまねぇ・・・」
「あぁ・・・こっちこそ・・・」
「・・・まぁ、信じますよ、龍醐さんの事。三千重の兄さんですし」
「なんで三千重の兄さんだから信じるんだ?」
「・・・三千重がバカ正直だからですよ。『バ・カ』」
つい、吹き出してしまい、・・・そのまま大笑いしてしまった。・・・三千重が怒る。
「お兄ちゃんッ!!」
「はっはっはっはッ!!」
「・・・まぁ、いっか・・・」
そう茂がつぶやくのを聞き、・・・俺は本当にバカだと言う事が分かった。・・・俺のバカが。
「・・・壊す? 日本を? ・・・やっぱり・・・あれは、本当だったのか」
「あれって何よ?」
「昨日、首相官邸を今日の3時に襲撃すると門の張り紙に書かれていた」
「その張り紙はどうした?」
「三千重が遠くへ投げ捨てた」
「えぇ!? 知らなかったから仕方ないじゃないの!!」
「まぁいい」
そう言うと俺は立った。
「・・・何を言っても無駄だ」
「・・・だな・・・」
三千重がいきり立つ。
「何言ってんのよ、早く知らせに行かないと・・・」
「三千重。時計を見てみろよ」
「え・・・?」
・・・・・・3時12分ちょうど。・・・そう、何を言っても、もう・・・遅い。
To be continued...