#:6
ここはどこかは分からないが。だが、ここで起きたことは全て真実だ。
ここに俺はいなかった。ここにいる奴らとは関係するとは思えなかった。
・・・だが、実際俺たちの物語に絡んできた。だから、物語の一部だと思ってくれて構わない。
大丈夫、ここで何が起きても今の俺とは関係ない。だって、まだ俺たちはこいつらを知らなかった。
・・・それでも、こいつらの一部が俺たちのことを、知っているのかもしれない・・・。
『俺』は、起き上がった。背中がズキズキする。だが、初めて寝たときに比べればマシなほうだ。
・・・『ここ』に来て何年になるだろう。幾重の時を過ごしただろう。ここには時計も暦もない。だから、そんなことを知る方法なんてない。・・・俺は『あのお方』のおかげで生かされた。
・・・だから、時間なんてもの、故郷なんてもの、過去なんてものは、捨てた。
・・・でも、何かを『オモウ心』は・・・結局捨てられなかった。
だから、この世界にまだ『オモシロイ』ものがあるから、心躍る。
・・・あのお方のためなら、世界でも壊せる。いや、・・・壊してやる、絶対に。
俺は重い戸を押し開ける。・・・そして、廊下を通り、広間の椅子に座った。
「邪魔だ」
・・・座った瞬間にそう言われ、・・・ビクっとした。
「・・・あんたか」
「あんただと・・・? どこの口だ、そんなこと言えんのは」
あぁ、おっかない。そのうち首を絞められるな・・・。
「はいはい、分かりましたよ、イーラさん」
・・・イーラ。いつもイライラしているからではない。
「・・・ちッ・・・」
そのままどこかへ行ってしまった。
「どうしましたか?」
おっと、背後からいきなり話しかけてくるとは不覚だった。
「アヴァリティアさん・・・はぁ、びっくりしましたよ。背後からはやめてくださいよ」
「分かってます。・・・で、・・・どうでした? イヴガーデンは」
「ああ、いいところだったな。とてもいいところだったから・・・『壊した』」
薄くアヴァリティアさんが笑う。その笑いは喜びか、蔑みか。
「・・・で、次のターゲットはどこだ?」
「・・・日本、です」
・・・日本。・・・未練など俺にはない。あんな国の一つや二つ、すぐにぶっ壊してやる。
「で、出発メンバーは?」
「ワタシとインヴィディア、そしてイーラ」
「・・・ちッ、俺は留守番かよ」
「せいぜいルクスリアと談笑でもしてなさい」
・・・あいつのことは嫌いだ。
「では、行ってまいります」
「どうぞ、お気をつけてー」
そして、俺は椅子の背にもたれ、ため息をついた。
・・・『俺』は陣を観察していた。どうも作動しない。
「どうしたんだ、イーラ」
「・・・インヴィディアか・・・」
・・・と、欠けているところを見つけ、修正する。
「またいかれたのか?」
「ああ、むしゃくしゃするな、畜生・・・」
「そうカッカするなよ・・・」
そこまで怒っているつもりはないが・・・。
「・・・お、直ったぞ」
「そろそろ出来ましたか」
「すまねぇな、アヴァリティアの旦那」
「・・・その呼び方やめてもらえますか」
「やなこった」
「・・・じゃあ、行くとするか」
・・・俺の名はイーラ。正直名乗っていると虫唾が走る名前だ。本名は辰星 龍醐。多分23歳。・・・妹が1人。しばらく会っていない。・・・いや、『会えない』が正しいか。彼女は、恐らく俺のことを忘れているに違いないだろうが・・・。
「どうした、早く行かないのか?」
「・・・ちょっと待っててくれないか?」
「手短にお願いしますよ」
「早くしろよー」
「わぁったての」
久しぶりに日本に帰れると聞いて小躍りしてしまいそうになる。だが、こいつらの前では・・・。
「まだかぁ?」
「あ、ああ。準備万端だ」
「よっしゃ、レッツゴーッ!!」
「乗りすぎだ、馬鹿野郎」
・・・あいつらの前では仲間面しているが、別に仲間ではない。何で世界を壊す必要があるんだ? 狂っている。・・・俺は壊す気になれない。というより、防ごうとしているというべきだろう。俺はこいつらを・・・。
・・・だからといって簡単に倒せるはずがあるとは思えない。まずアヴァリティア。一見どこかの貴族の一人に見える。もてそうなオーラが出ているが、・・・正体は恐ろしい魔物とも呼べる『何か』。初めて見たときは吐き気を抑えることに必死だった。戦闘能力は俺が力を発揮しても太刀打ちできないほどだろう。
次にインヴィディア。戦闘能力は未知数。タッグで行動するのはこれが初めてだ。だからこそ油断できない。
・・・まだ他に4体いる。そして、最後に・・・あいつらが『あのお方』と崇め敬う『存在X』。自分は声しか聞いたことがない。だが、・・・無謀に戦いを挑むことは・・・。
「もうすぐ着くぞ」
「わかってるぜ」
「・・・イーラもここに来てだいぶ経ったな」
「・・・あぁ」
「・・・これからも頑張れよな?」
「・・・」
・・・肯定できないで哀しい。だが、肯定できない質問を出すあいつが・・・『憎イ』。
・・・俺はだいたい2年前『あっち』の世界に跳んだ。当時は訳が分からなかった。だが、あいつらの勘違いがきっかけで、俺はあいつらとともに行動することになった。
ただ、いつか戻ったときのために、一日たつごとに壁に傷を小さく入れていった。それが、多々今確かめたときは、746個だった。だからだいたい2年。だいぶ変わってるだろうな。
・・・俺は最初は積極的に、この運命を楽しもうとした。・・・無論、滅ぼすたびに切なくなった。
だから、俺はこいつらを止める。・・・今になって俺に『忌むべき力』が宿された訳が分かった。
・・・それが、俺の宿命なのだろう。・・・そして、俺は初めてその時、・・・神を讃えた。
To be continued...