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俺は芳養房 茂だ。姉が一人と、双子の弟が一人いる。
無論まだ子供はいない訳だが、二人は欲しい。俺の祖父は義富 貞治郎といい、かの大財閥、義富グループ現総帥だ。
といっても、もうすぐ総帥も引退し、彼の長男、武郎に総帥の座を譲るらしい。
・・・つまり、俺の伯父が総帥になるってわけか。そういえば俺はよくじっちゃ――――祖父のことだが――――に遊んでもらったっけなぁ。
子供の頃からあまり親父とも遊べなかったし、お袋と一緒にいたこともそれほどない。だからってずっとさみしかった訳じゃない。俺の背中にはいつも弟がいたからな。
ところで俺の親父は一見普通に見えるが、・・・女とよく遊ぶ。まぁお袋が怒ると怖いから合コン詰まりだが。
お袋は柔道三段、剣道七段、空手道五段、弓道十段の段位を持っている。
特に柔道に関しては一度ロサンゼルス五輪で銅メダルを授与している。お袋曰く、『私は井の中の蛙にすぎなかった』と自分の未熟さを自戒していた。
ただ、お袋の欠点は・・・体育会系一筋だから・・・計算が苦手だ。そんでもってチェスや将棋をやったら・・・お袋の王、キング以外の駒が全部なくなってしまった。
・・・それ以来運という概念がなくなってしまったらしく、お袋の前でボードゲームの話をすることはすなわち、『死ぬ覚悟は当の昔に出来ている』・・・ということだ。
お袋が親父の代わりに社長になったら・・・うう、恐ろしいッ!! いつお袋が福沢諭吉をばら撒くか、考えただけでもぞっとする。
その点、親父はチェスの世界大会で12度の優勝経験があり、その采配ですばらしいビジネスを展開している。あの性格さえなければ非の打ち所がないのだがなぁ・・・。
親父曰く、『金は使わなきゃ意味がねぇ。いくら稼いだって使う暇がなきゃただの紙切れだ』と、人生は楽がなきゃ面白くないと言っているようだ。まぁ仕事の虫になって一生仕事をし続けるのはもちろん嫌だが。
だが、・・・親父は酒もタバコもダメで、最初はおふくろの前でカッコつけるためにタバコを吸っていたが、お袋に言われるまでもなくすぐにやめた。・・・俺はあと一つ年を重ねれば酒もタバコもOKだ。
・・・まぁ実を言うと・・・昔親父とお袋に内緒で仕入れたブランデーをまだ開けていない。10年物だ。・・・保存状態も図書館の本を読んでしっかりと整えている。三千重に飲まれないように気をつけなければ・・・。
・・・あ、2つ言い忘れていた。三千重は俺より一つ年上だ。二十歳。・・・俺が『竜』な訳は、・・・親父の『遺伝』だ。
おっと、三千重が呼んでる。じゃあ俺はこれで。
「このワイン何?」
見つかっちまった。
「あ、それは10年物のブランデーだ。おいおい、あんまり揺らすなよ」
「いつ買ったのよそんなの?」
「3年前に親に内緒でな」
「へぇ、あたしに内緒で買ったのぉ?」
「だからよぉ、お袋には内緒で――――――――――!?」
・・・お袋、・・・来てたのかよ。
「義母様が来たから茂を呼んだら、偶然これを見つけて・・・」
「三千重さぁん、私のことは義母様だなんて堅苦しいこと言わずに流恵でいいわよぉ?」
「三千重、タイミング悪すぎだ・・・」
「ってわけで、飲んでいいかしらぁ?」
・・・俺の楽しみにしていたブランデーをごくごくと・・・。
2万円したんだぜ、それ。香りを楽しめよ?そんな飲み方するなよ・・・?
「・・・私・・・悪いことしたかな・・・?」
「した」
「三千重さんは悪くないわよぉ、勝手に私に内緒にしたコイツが悪いのよぉ?」
「だけどよ、それは俺の酒・・・」
「未成年者の飲酒は法律で禁じられています。買うのも駄目ぇ」
お、お袋の野郎、法律の盾を使いやがった・・・。
「あ、でもこのお酒、おいしかったから許すわ。三千重さんも飲めばよかったのにぃ」
「で、でも茂が・・・」
「おい、もう何も言うな」
「え? あ、うん・・・」
「じゃあ私はお邪魔するわねぇ、ハバナイスデイ! おーーっほっほっほっほっほっほ!!!」
・・・確実に酔ってるな、こいつ・・・。食べ物、もとい酒の恨みは怖いぜ・・・。
この時俺はこう思った。
『こんなドタバタした世界がすぐに崩れるはずがない』・・・と。
・・・やはり俺は・・・・・・甘かった。
To be continued...