#:17
・・・私は、二階の一室に方舟くんと一緒に篭城していた。鍵をかけて、ドアの前にはいろいろな家具。
・・・方舟くんは震えている。でも、私には怯えている方舟くんを安心させることはできない。
なんだ、それ。・・・私、・・・方舟くんの、・・・・・・お母さんでしょう?
私が、安心させないと、誰が彼の母親になれるの? ・・・やっぱり私じゃ・・・駄目なのかな・・・。
「・・・・・・大丈夫・・・平気。・・・きっと。絶対に大丈夫だから。・・・安心・・・して?」
・・・その言葉は、彼に向けたものなのか。それとも、私自身に向けたものなのか。
私自身でも分からなかった。・・・本当に、・・・私は、駄目なお母さんだな・・・。
マスターは、何を考えているんだ? 一人の子供と、この日本という一つの国。この二つの間には何も関係はないと思うんだけどなぁ・・・。
『・・・よく分からないぜ・・・』
とりあえず、一階には誰もいなかった。扉や家具を壊したり倒したりして、探してみたが・・・。
「・・・あーあ・・・。俺の家がこんなことに・・・まるで泥棒に入られたみたいだぜ・・・」
声のするほうを向く。・・・今さっきの奴か。
『貴様は、兄の方か? それとも・・・』
「あんな奴と一緒にするな。俺はこの家の主、芳養房 茂だぜ」
なんかカッコつけてるように見える。
『・・・どちらにしろ貴様は俺の敵であることに変わりはないんだろう? 聞くまでもないが』
「そうだぜ。お前とは大違いだ」
『・・・貴様も、・・・竜なんだろう? なら、俺の味方に・・・』
「断る。俺は人間だぜ。ちなみに俺の家系から説明しようか?」
『やめろ。長くなりそうだ』
だが、奴は俺の話も聞かずに勝手に始めた。
「いいか? 俺のお袋は普通の人間だ。わかるよな? そんでもって親父は竜だが、人でもある。ならそいつはどんな奴かって? あぁ、説明してやろう。親父のお袋・・・つまり父方のばあさんは竜・・・まぁこいつも人だけど。で、父方のじいさんは、どうも獣だけど人なわけだ。で、親父の弟・・・叔父っていうのか? ・・・は、獣で人。ここまで説明分かったか?」
『分かるかッ!! だいたいだな・・・』
で、また始まる。
なんというか・・・さっさと話を無視していけばいいんだが・・・なんだ、この言葉の結界はッ?!
「そんでもってだ。俺のお袋は五人兄弟の三人目で、上に兄と姉が一人ずつ、後は妹が二人だ。ちなみにその辺りの説明は激しく長くなりそうなので割愛する」
もう十分長いわッ!
「で、これは・・・三千重の話なんだがな、馴れ初めは・・・」
いや、家計の話だろッ?! ・・・まぁ、聞きたくないといったら嘘になるが・・・。
「・・・言う訳がない」
結局そうなるかッ!
「三千重には兄がいてだな、そいつがお前の元仲間だったってわけだ。はい、以上」
・・・あれ? 今最後にとっても大事なこと言ったような気がする。今なんて?
「もう一度聞きたいか? 分かったぜ。俺のお袋は―――」
『そこじゃねぇ。一番最後の・・・』
「は? ・・・えぇと・・・はい、以上」
そこをわざわざ聞くかッ?! ・・・俺、弄ばれてる?
「お前の元仲間だったって節か? あぁ。彼の本名は辰星 龍醐。俺の義兄ってわけだ。確かお前が変な虫を出したときも口走ったような気がするけどよ?」
いや、そんとき俺、頭に血が上ってたし・・・。おいおい、マジかよ? こんなドッキリ・・・?
「・・・ッ!」
扉が、コンコン、と叩かれる。
「・・・茂?」
「いや、残念だったな・・・」
少し落胆。
「ちぇー、弟の方? ならまだもう少し引きこもってるから」
「おいおい・・・」
「あ、あれ・・・茂じゃないの?」
方舟くんは私にそう尋ねる。
「あ、うん。弟の方。分かる?」
「え、あ、う・・・こ、こんにちは・・・」
「もうこんばんは、だ。ほら、すねてないで出て来い」
おっと、お兄ちゃんだ。確かにすねてる場合じゃなかった、こりゃ危ない危ない・・・。
「んじゃ、はやくここを開けてくれよ。お前の旦那さんが怪しい固有結界を使ってる間に」
こ、こゆ・・・? あぁ、もう! 私だけ話についていけないような言葉は使わないでよ!!
「方舟くん、右持ってくれるかな?」
「あ、うん・・・お、重いよぉ・・・」
どっこいせと。
「どんなバリケード作ってたんだよ?」
「タンスとソファーよ」
そして、鍵のツマミをくいっとひねる。
「ほら、急ぐぜ」
お兄ちゃんに続いて、私は方舟くんの手を引いて走り出す・・・。
『で、それでどうしたんだよ?』
「それがだな、なんと穴に落ちちまってよ」
『ぎゃははは!!』
何だありゃ。ついそう言いそうになるが、ばれたらまずいのでこっそり逃げ出す。
『ひひひひひっ、ははッははははっ・・・! く、苦しいぃ・・ひゃっはっはっはっは!!』
「おいおい、つぼにはまっちまったか?」
『な、なんのこれしきぃひひひひははははッ・・・!』
いつのまにか談笑しちまってるよ。あいつもそこまで馬鹿じゃないからそろそろ気付くだろうが。
『・・・あ、・・・そうだッ、確か・・・・・・そうだ、ガキを誘拐しようと・・・』
「あ、そういえばそうだったな。お前は敵で、俺の息子を攫いに来たんだっけ?」
『あぁ。・・・それにしてもだ。あんた、・・・俺を弟子にしてくれねぇか?』
は? いきなりそうくるか?
「冗談はごめんだ。それよりも、玄関扉だけでも弁償してくれ」
『お前の息子と引き換えだ』
ちょっとシュールで笑えた。
「天地が逆転しても縦に首は振らないぜ」
・・・暖かい空気は、冷え切ってしまった。それは、日が完全に落ちてしまったから。そして、奴が俺に対して殺意を抱いたから。・・・あと一つは、奴が弁償する気がないからだ。
「とりあえず、だ。戦う前にひとつ聞きたいことがある」
『あぁ。一つだけな』
分かってるっての。
俺は義兄さんに聞きそびれたことを聞いた。
「チャージって、なんなんだ?」
お、反応した。
『・・・マスターが、俺に与えてくれた力だ。周囲の電気を吸収し、体内に蓄積して、それを熱エネルギーに変換する。その熱エネルギーを体内で燃焼して、・・・驚異的な怪力を生み出す』
「よくわからねぇなぁ・・・」
『馬鹿野郎、あんたの家系のほうがもっとわからないっての』
いつの間にかこいつ、俺のことあんたって呼んでる。なんか好感度でもあがったのか?
『話はそれで終わりか? 俺はいつでもお前を殺せるんだぜ』
「ひえぇ。くわばらくわばら・・・」
無論、怖くなんかないが。だって、俺が、こんな奴に、負けるはずが・・・ないしよ。俺は、目をつぶる。・・・そして、精神の奥の奥へと、内なる自分へと、呼びかける。それは、俺だ。だけど、そいつは俺じゃない。・・・俺であって俺でない、俺。そいつが、竜だ。原理なんて興味がない。俺は、人間だ。だけど、竜でもある。俺はそいつを憎んだこともなく、そんな奴に生まれてきた自分自身を呪ったこともなかった。だって。他の人には味わうことのできないことだ。なんか特別な感じがして、うれしくって。
それに、俺はいま、こうやって普通の人間と同じように生きている。まぁ、バケモノという言葉には弱いが。
そして、俺は、人並みの愛を手に入れている。富も、名誉もある。それは、極上の幸せ。だからそれを穢す奴らは、灰燼も残さず、・・・ぶっ潰す。俺じゃない俺は、俺に呼応するように目を覚ます。
・・・さぁ。幕開けだ。・・・これで何度目か。・・・まぁ一桁だがな。・・・いくぜ、俺。
『うおおおりゃああああぁああああああああああああああああッ!!!!』
To be continued...
話の更新が遅いみたいですね。やっぱり他の人の作品は参考になります。
だからサクサク書いていこうかなと思います。あ、一話が3000字前後なんで。
自称・わんこそば作家ッ! ・・・出身、岩手じゃないですけどね(苦)