#:12
・・・残念ながら、この世界には英雄と呼べるモノはない。
たとえば、100万馬力の原子力ロボットとか、3分しかここにいられない巨大生物とか、
ましてや、弾丸を喰らっても厚い胸板で跳ね返してしまう宇宙から来た人とか・・・。
・・・とにかく、そんなモノは一切存在しない。いるのは、漫画の中だけ。
じゃあさ、怪物はいるかって言われたら俺はどう答えると思うか?
・・・答えは『イエス』。・・・例えば、と聞かれたら、なんて答えると思うか?
・・・・・・答えは・・・『俺』。・・・あれ、笑えなかったか? まぁ、そうだよな。
卑屈って言われても仕方ないぜ。俺は逆立ちしても、懸垂しても・・・竜だ。
・・・ならなぜその力を使わないか? バーカ、用もないのに金を出す馬鹿がどこにいる?
それと同じようなことだぜ。力を使うべき場所を見極めて使わなきゃな。金も同じだぜ。
は? 見たい? 人前で見せる気なんざサラサラねーぜ。期待させといてすまねーな。
「・・・ありゃなんだ・・・としか言えねーな・・・」
その球体・・・ボールは、膨らんだり萎んだりを繰り返している。そして、地面から聞こえる音。それは、それの鼓動に違いない。それは、生物のように感じられるが、・・・生物とは到底思えない。
・・・だが、一人の勇気ある男性がそれに近づいた。
「おい、あぶねぇぞッ! 近寄るなッ!!」
「大丈夫大丈夫、これぐらいは・・・」
・・・ぴしッ。・・・何か、ヒビが入ったような音が鳴り、その近寄った男性が身をひいた。
「何か出て来るぞ!」
「ほらほら、カメラカメラッ!!」
「おい、押すな押すなッ!」
・・・そして、その球体が割れて・・・巨大な、羽虫のようなものがずるりと出てきた。なるほど、これは繭のようなものだったのか。・・・おっと、乗客が騒ぎだした。
「キモイー!!」
「はいー、どいてくださいよー」
ようやく車掌さんが来る。
「・・・いくら私でもあれは無理ですよ」
「・・・そうですよねぇ・・・」
そういうと、・・・車掌さん、逃げる。ドアをなぜか開いて逃げる。パニックになった車内。乗客も次々と飛び降りて行き、興味を持った奴と、俺だけが取り残された。
「ねぇ、あんたもそういう趣味あんの?」
「あるわけねぇよ」
「ま、そうだよなー!」
ならなぜお前は残った? そう言葉が浮かんだ。
「お・・・こいつ、動くぞ!」
そいつは、羽を広げる。そして、浮かんだと思ったら・・・体が重みに耐え切れなかったのか、・・・地面にカラダが叩き付けられ、緑色の体液をばら撒き、・・・力尽きた。
「・・・大スクープだぜ」
「気持ち悪くねぇのかよ」
「慣れてる」
そういうと、再びファインダーを覗き込み、フラッシュを1,2回たいた。
「・・・撮影、確実に遅れちまったぜ」
「撮影? ・・・あぁ、そうだ。僕も仕事があったんだ」
ならこんな物撮影している暇はないだろう?
「一体何を撮るんだ?」
「いや、君こそ何を撮るんだい?」
「・・・撮られる方だが」
「ああ、被写体か」
被写体って・・・。せめてモデルとかその辺りの言葉を使ってほしかったぜ。
「まぁ、僕は人を撮る仕事はしていないからね」
「あっそ。じゃあさいなら」
「ちょっ、ちょっ、ちょっ! 名刺ぐらいは貰っていってほしいな」
「生憎急いでるんで、さいなら」
そういうと、列車から飛び降り、駅まで走る。んにしてもあの車掌、確実に首をハネられるな。
「・・・電車、大丈夫だった?」
「えぇ、なんとか乗って―――」
「はい、撮影はいりまーす」
あとで、と目配せをし、彼は照明器具を操作しにいった。
「まず、これ着て」
「・・・制服ッ?」
撮影が終わり、スタッフに挨拶をする。・・・と、照明担当の小柳が話しかけてくる。
「・・・変な生物が出たって?」
「あ、はい。死んだみたいですけどね」
「他の所でも出たんだって」
他の所にもあんな奴が・・・想像すると・・・少し、気持ち悪い。
「んじゃあ帰ります」
「家でお嫁さんが待ってるんだろー? ヒューヒュー」
「殴りますよ」
とりあえず、電車で帰るのも少し気がひけるからタクシーで帰ることにした。
「・・・なんで止まってくれねぇんだよ、・・・あぁ、チキショウッ!」
・・・手をあげたが、見事にスルー。次のタクシーも・・・華麗にスルー。
「・・・おっ、・・・止まった」
待ち始めて6台目でようやく乗ることができた。
「ほんと、困っちまいますよ。他のタクシービュンビュン行っちゃいますから」
「へぇ・・・」
・・・少し気味が悪いが、降りるわけにもいかないから行き先を言った。
・・・「・・・そこじゃねぇよッ、・・・どうしてそんなに下手なんだよぉッ・・・?」
「・・・・・・」
「なんとか言ったらどうだッ? 気味悪ぃいぜ」
「・・・・・・」
「・・・もう降ろしてくれ。あとは歩いて帰るからよ」
「・・・降ろ・・・さな・・・い」
「は? 何言ってんだよテメェ、降りるつったら降りるぜ。代金は?」
「じゃあ、・・・あなたの、・・・命を」
そう言い、振り向いた運転手は・・・
「・・・なッ――――!!」
・・・嘘だろ? そんなはずはねぇよな、どういうことだよ・・・、嘘だ、『あいつ』がなんでここにいる・・・いや、ここで『生きている』んだよッ?!
あいつは、あいつは俺たちが―――、・・・俺たちが・・・ッ!!
・・・くさーん、お客さーん、もしもーし!
「うわああぁッ?!」
「大声出さないで下さい、着きましたよ」
「ん? あ、あぁ。着いたな」
「じゃあ降りてください」
「・・・俺、寝てたのか?」
「えぇ。今日は早く寝た方がいいですよ。高校生ですよね?」
「・・・19歳、社会人だ。もう妻もいるしよッ」
「え、その歳でッ?!」
それ以上は何も言わず、俺はタクシーのドアを開けさせ、代金を払った。
「なんなら、雑誌とかその辺り、よくチェックしておくように。釣りはいらねぇぜ」
「え、ちょッ! 5円足りないよッ?!」
「ツケといてくれ」
「駄目だッ!!」
とりあえず、5円玉をピシッと軽く額に叩きつける。
「・・・ケチは結婚できねぇぜ」
そう言うと俺は身を翻し、家の玄関へと向かう。後ろで運転手が何か言ってたが知らない。
(・・・やな夢だったな。・・・あれ・・・あいつって・・・誰だっけ。・・・誰だ・・・?)
「・・・えっ、・・・辞めたの?」
「あぁ。・・・朝に言っとけばよかったよな。すまねぇ」
「・・・いいよ。心配事が一つ減ったし」
「心配事って、他にもあるのか?」
「他って・・・えぇと・・・」
「何だよッ、赤くなるなよ! ほら、お子様はみるなッ!」
「あ痛」
とりあえずコツンと方舟を叩いた。別に照れ隠しじゃねぇぜ!!
「あぁッ、いじめちゃ駄目でしょッ!」
「う、うっせぇ! いじめてなんかねぇぜッ!!」
「あぶり出しか・・・」
龍醐はつぶやいた。こいつらを使って俺を捕まえるつもりだったのだろうが、この地上に適応するように育てられていなかったようだ。
・・・え? あの生物は何か?
虫・・・いや、蟲と俺たちは呼んでいた。育て方によって、様々な地形に適応できる。だが、あいつらは気圧についての育成方法を間違えたようだな。だから、滑空できずに全部死んだ。
今、科捜研辺りが調べてるんじゃねぇの? 俺はこの辺りについてはさっぱり知らねぇ。法律もなんじゃいそりゃって感じだ。無論、文科省の仕事ぐらいは知ってるがな。教科書を作ってるんだろ? ・・・え、違うのか? ならほんとは何なんだよ、教えてくれないか?
「全滅かよッ、あーくそ。せっかく一から育てたのによ・・・」
俺は髪を掻き毟る。
「間違えるとはな、あの場所で生まれた汝が。まぁ、何とかしてくれるであろう。・・・彼らが」
倒置法を使いまくっているので少し言葉を理解するのに時間がかかった。
「俺だって知らねぇ事は百も二百もあるぜ。あんたも知らねぇ事、あるんじゃねぇのか?」
「ない。・・・我が知らぬ事などな」
・・・溜め息をつく。
「あいつらは、ちゃんとやってるかな」
そして、一瞬イーラ・・・さんの顔が頭に浮かぶ。
(不穏な予感がするぜ。なんだろうな・・・)
「ぬんッ!!」
突然、ルクスリアが叫ぶ。
「うっせぇな、オカマ野郎。何がぬんッだよ!」
「彼らを占ってみたのよ、そ・し・た・ら・ね、タロットの結果がこれなのよぅ~~ッ!」
・・・男と女が描かれている。
「ラバーズ。・・・恋人か。―――で、ほんとは何を占ったんだ?」
「私とね、エセくんの、れ・ん・あ・い・ど♪」
「・・・つまり、俺とお前は100%か?」
「そういうことよ! だからねー、私と、」
「断固拒否じゃバカヤローーーーッ!!」
殴り飛ばして、その場をようやく沈めることに成功した。・・・だが、心の中の不穏は、消えない。
To be continued...