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・・・私は、これでも料理は苦手だ。だが、お菓子作りに関しては得意だ。
子供の頃は、将来の夢はパティシエと卒業文集に書いたほどだ。
芸能界に入った当時、早く辞めてパティシエになろうかと少し思った。
でも、仕事を続けているうちに、なぜか楽しくなって、もうやめようなんて思わない。
もちろん、パティシエにはならないけど、お菓子の本とかをときどき出版している。
売り上げは好調。なぜか隠し味がうまいと言われている。意外な物だからかな?
へ? どんな物って? そりゃぁ、・・・味噌とか・・・カレー粉とか・・・。
「・・・うわ、焦げちまったぜ・・・」
「もう! オーブンの温度が違うわよ!」
「あ、ほんとだな・・・」
「まぁ、これぐらいなら生クリームで隠せるけど、ちょっと苦いわよ?」
・・・突然亜麻弥ねーちゃんが問いかけた。
「・・・これ、誰にあげるの?」
俺は手を止める。
「・・・別に、・・・誰だっていいじゃんかよ・・・」
「・・・彼女?」
「ちげーよ!」
・・・黙りこくったから、仕方なく本当の事を言った。
「・・・嘘。・・・彼女に、あげるんだ」
「・・・ふぅん。・・・結婚は考えてるの?」
「・・・まぁ、・・・そりゃあ俺も子供がほしいしな」
「・・・昔は『子は鎹』なんて呼ばれていた時代もあったわね。でも、今は紙切れ一枚で、すぐに別れる事ができるのよ。子供はその時に押し付けあう物の一つ。そう、もう鎹なんかじゃないの。ただの、・・・お荷物にさえなるのよ・・・」
「・・・亜麻弥ねーちゃん・・・」
「・・・ほら、手が止まってるわよ。早く混ぜないと」
「あ、ああ・・・」
・・・結局、今日作ったケーキは少し悲惨なものになってしまった。
「・・・なぁ」
「ん?」
亜麻弥ねーちゃんは台所を片付けながら振り向いた。
「あの言葉・・・深かったぜ」
「あぁ、あれ? 実はドラマの台詞なのよ」
・・・がっくし。
「あ、あはは、勘違いしちゃったの・・・第一、私あんな事言える立場じゃないし」
―――すると、呼び鈴が鳴った。
「あれ? そう言えば男を閉じ込めてるんじゃなかったっけ」
「閉じ込めてるなんて失礼な! 泊めてあげてるのよ!」
「本人の同意は?」
「・・・ないけど」
・・・・・・亜麻弥ねーちゃんは、彼の部屋にノックして、入っていった。
「・・・あんた、芳養房 亜麻弥だろ・・・?」
「ばれちゃったわね。そうよ、私はAMAMI・・・」
「・・・やっぱあいつに似てるな・・・」
「あいつって誰よ?」
「俺の妹婿。・・・お前の弟だ」
「な、まさか・・・三千重ちゃんの・・・!?」
「ああ、・・・兄だ」
・・・歪なフラグが立った。
「へ、・・・へぇ~・・・。・・・意外とかっこいーじゃん・・・」
「お前は嫌いだ」
・・・見抜かれた。
「そ、そんなこと思ってないわよ!」
「・・・そんなことって何だ?」
「じ、自分でそんなこと分かるでしょ!? わざわざ聞かないでよ!!」
「第一、俺のこと執拗に監禁してた時点でそれぐらい少しは見当がついてた」
「だったら! 早く言ってよ!! わ、私・・・」
「・・・まぁ、嫌いっていうのは嘘だが・・」
「嘘だが? 何ッ、嘘だけど何!?」
「・・・まだ好きでもない」
「言われんでも分かるわッ!!」
「はいはい、そこまでで終了。亜麻弥ねーちゃんも弄ばれてる事に気付け」
「は、はぁ!? 弄ばれてなんかないわよ!! 私は・・・ただ、・・・こいつの事が・・・」
「・・・名前だけでも言っておくべきか?」
「な、名前なんか聞きたかないわよ!!」
・・・素直になれない自分が嫌いになった。でも、素直になろうとするとどうしても角が立つ。
「・・・これは、独り言だぜ。・・・俺は辰星 龍醐だ。・・・俺は、お前に気がある。・・・以上」
「あっそ、独り言ね独り言。しかとスルーさせてもらったわよ! さっさと帰れ!!」
「言われなくても帰る。じゃあ、また会いたくねぇから神様に祈っとくぜ」
「勝手に祈っとけ!」
・・・「・・・馬鹿。・・・私の大馬鹿ぁ~~~ッ!!」
「おいおい、自分を責めんなって!!」
「素直になりたいだけなのにいいいぃいッ!!」
「落ち着けって! 静かに! シャラップッ!!」
「・・・はぁ・・・」
・・・マンションの自室に戻り、・・・彼女を想った。
ラジオからは一昔前の音楽が流れている。・・・曲がフェードアウトし、道路交通情報が流れる。俺はFMからAMに切り替えた。・・・ニュースが流れる。最初の話題は、やはり首相官邸襲撃について。・・・新たな犯行声明が届いたとかそんな話。犯行声明の内容が流れる。
・・・『我々ハ人ニアラズ。コノ国ヲ滅ボシニ異世界ヨリ参ッタ。交渉ニハ応ジヌ。慈悲ナド与エヌ』
大胆すぎやしないか? 第一そんな事誰も信じないっての。政府とか警察もよくOKしたなぁ・・・。
・・・次の話題。賞味期限偽装問題について。これについては、あまり興味がない。・・・・・・だが、冷蔵庫の中にその会社の製品が入っていたから、結構びびった。
次は・・・俺の知っている事件だった。
「・・・アヴァリティア・・・」
・・・四人目が執行された。
「その周囲には紅きインクで意匠を記してあるだろう、・・・か」
・・・アヴァリティアの最近よく言っていた言葉だ。・・・三人目まで執行されたことは知っていた。
だが、ついに『4』人目だ。・・・この事件の犯人は、無論アヴァリティア。何のために行なったか。・・・・・・宣戦布告・・・だそうだ。・・・円陣の意味?実を言うとよく知らない。仕方ねぇだろ!? 時空転移用の円陣の説明しかされてねぇんだよッ!!
・・・っと、すまない。つーか俺、誰に向かって話してんだ? 独り言にしては盛大だしよ・・・。
「まさか、盗聴かッ?!」
・・・そんな訳ねぇか。いつ襲われるか分からねぇからやっぱ怖い。やはり従っていた方がよかっただろうか?
「・・・そんな訳、・・・ねぇ・・・よな。はぁ・・・」
ため息をつくと、不意に眠たくなる。そう言えば鍵をかけただろうか。・・・閉めなければ・・・。・・そう思った時には、すでに眠りに落ちていた。・・・彼女のことを想いながら。
To be continued...