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スター・デストロイヤー  作者: 高峰 玲
1/10

黒船屋 ── ゼロ・ストリートの戦慄 ── 1



 いつの時代からのことであろう……?


 人類は見上げる夜空の星々の海を、ただ遠くながむるだけのものとしてではなく、そこに命を預け、生きるための場として目を向けることを覚えたのだ。


 はるかなる星の世界を、その生活の舞台として夢見てきた。初めの一歩はあたたかな大地からの離脱であった。それから、ごく身近な天体である衛星、そして隣惑星へと……。


 いつの世にも外へ外へと向かう心は果てることを知らなかった。そうして異なる恒星系へと至る道すじを確たるものとするようになって初めて、人類は宇宙生活者となる。


 夢を現実のものとしたのだ……。


   





 それは奇妙な光景であった。


 黒船屋(くろふねや)──ゼロ・ストリートの外れに落ちた宇宙船で、いまは酒場として一戸の建物に改造されている。もとは海賊船だったという噂もある──のなじみ客であれば、一歩中に入ったとたんに変だと思う何か、がそこにはあった。


「かァいそうにね、アンジェラ」


 おおよそ人間とはかけ離れた、甲高い、どことなく哀調を帯びた声でブラッキーは言った。黒船屋の主人ヨブじいさんの猫で、その名のとおり夜の闇のように真っ黒である。

 ただひとり、カウンターについていた女はそっと片手を目の前の黒猫にのばした。金眼銀眼を心地良さげに細め、ブラッキーは女の愛撫に身を任せている。ヨブじいさん以外の人間にブラッキーが触れさせることはもちろん、口をきくところなど見た者はいない。ゆえにそれは奇妙な光景なのだ。

 そも、女が黒船屋に足を踏み入れた一瞬で、店の中の雰囲気が変わってしまったのだ。次の瞬間には、またもとの騒々しい酒場に戻ってしまったのだが、その一瞬のどこか冴え凍るような、冷えびえとした沈黙に包まれた感じを、居合わせた者たちは一生涯忘れることはないと思った。

 最初は男なのか女なのかわからなかった。かなりの長身を頭から鈍いグレイのマントで包みこんでいたからだ。何の迷いもなくカウンター席に腰を下ろすと、ブラッキーは音もなくカウンターに上がり、()()の傍におちついた。

 どんな客にも興味を示すことのなかったブラッキーが、初めて自分から他の人間に寄り添ったのだ。無関心を装いながらもヨブじいさんは観察に余念がなかった。

「……ミネラルウォーターを」

 低いがはっきりした声音で、相手が女だとわかった。ブラッキーが緩やかな少し甘えたような動作で女の肩に前肢をかけ、フードをくわえてひっぱる。ばらり、と頭頂部で束ねられた長く豊かな髪が拡がった。栗色に近い黒髪。何とも微妙な色合いが美しい。

 女と見てとるや、無遠慮な視線を送る者も少なくはない。精一杯めかしこんで男漁り(マン・ハンティング)に来た女たちも、はっとしたように口をつぐんだ。しかし彼女は、それらには気を留めた様子もなくただじっと座っていた。

 ヨブじいさんが女の前にコースターを置く。いつも来る荒くれ男なんぞには使わないが、何しろ初めての客だ。正方形のタロットカード調。モノクロームのそれは《死神》だ。女はじいぃっとそれに目を注いでいる。

「……他意はありませんぜ。そういう順番だったんで」

 言いしなにタンブラーをのせる。ごく自然な動作で顔を上げた女と目が合った。ぞくりとする。何の表情もない切れ長の目。ダークブルーの瞳は涼やかではあるが底知れぬ青い淵のよう。

「いいカードなァんだよ、おまえさん」

 何ともやりきれない気分になったじいさんは、ブラッキーの言葉で救われた、と思った。同時に(いぶか)る。自分以外の人間に話しかけるなんて……。

 だがじいさんは、ブラッキーの方を女が見たのを幸いと女の前から逃げ出した。

「よォくごらん。《死神》はあんたの方に頭を向けている。リバースなんだ。これはいいんだよ」

 そう言うとブラッキーはにぃやり、と、あの猫特有の笑い方をした。

 ふっ、と女も口元をゆるめる。

 それから、()()()は低い声で話しはじめた。何を話しているかまでは聞こえない。だが金眼銀眼の黒猫と妙齢の美女(氷れる美女、と心密かにヨブじいさんは名づけた)が話し込む姿は摩訶不思議なものだ。

 そして唐突にしんみりとしたブラッキーの声が辺りに響いたのだ。

「かァいそうにね、アンジェラ」

 アンジェラと呼ばれた女は口元に微笑を浮かべただけ。

「アンジェラ、だと?」

 それまでチラチラと彼女を気にしながらも、厚化粧の女にハントされていた巨漢がコーナーのソファーから飛び起きた。しなだれかかる女を邪険に突き放し、荒々しい足取りでアンジェラの背後にまわりこむ。アンジェラは振り向きもしない。

「……その髪の色、まちがいないようだな。魔女め! 覚悟しやがれっ」

 言い捨てるなりホルスターから抜いてアンジェラの後頭部へ向けて撃った。

 ようやっとアンジェラが振り向く。

 男が撃った弾丸はあわやというところで顔面をそれ、背後の棚のボトルを破壊した。

 弾丸を使用しない武器の普及するいまの時代において、ピストルで故意に人間の頭部を撃ち抜こうなどという考えを持つ者にろくな死神は訪れない。

 アンジェラが男に対応したとき、すでに男の喉はすっぱりと切り裂かれていた。《死神》のカードによって。タンブラーの水はこぼれてもいない。

 静かに、アンジェラは男を見やった。喉を鳴らしながら、言葉の代わりに血をまきちらして男は倒れる。男に袖にされた女は新たなハンティングを始め、誰も皆、死んだ男には目もくれようとはしなかった。

「店主」

 アンジェラの声は低かった。何かが宙を舞いタンブラーに落ちた。共和国金貨だ。ありとあらゆる星で通用する。

 はねた水をかぶってブラッキーが()()をつくる。

「馳走になった。店を汚してすまぬ。これは男の墓穴代にでもしてくれ」

 さらにもう一枚の金貨を細い指が弾いた。再びタンブラーへ落ち、ブラッキーが水をかぶる。目の端でそれを見て笑うと、アンジェラは歩きだした。

 歩きながら、また金貨を弾く。今度はマン・ハンティングの女の胸元に飛び込んだ。

「稼ぎをふいにして、悪かったな」

 そのまま黒船屋を出ていこうとする。

「アンジェラ」

 ブラッキーの甲高い声が呼び止める。

「またおいで」

 にぃやりとしなから言うとブラッキーは奥へ入ってしまった。

「そうすることにしよう……」

 そっとつぶやいて、アンジェラは黒船屋をあとにした。




 夜霧がゼロ・ストリートをグレイのヴェールの内に閉ざしていた。

 さほど視界は悪くはないが、こんな夜に人通りなど多かろうはずもない。仮にも年若い女ならば、ひとりでそんな道を行こうとはしないだろう。しかしアンジェラは、三マイルはあろう宇宙港への道を、急ぐでもなく歩いていた。

「よう」

 ふいに前方から声がして脇道から男がひとり、ぬっと出てきた。アンジェラの知った声ではない。霧にかすむ姿にも、霧のこちら側に出てきた姿にも見覚えなどない。男は街灯の下で立ち止まり、下卑た笑いでアンジェラを待っているようだった。

 が……。

 アンジェラの規則正しい足音に、変化はみられない。

 男は世間一般でいうところの二枚目──しかもまっとうな職に就いているとは思えない、いわゆるチンピラと呼ばれるであろう人種──で、それも自分の容姿にかなりの自信を持っている、そんな顔つきをしていた。それを、アンジェラは完璧に無視した。ちらりとも、見ようとはしなかった。

「待ちなよお(ネエ)さん」

 男はアンジェラの腕をつかんで足を止めさせる。

 アンジェラは無言で男を見やった。

「さっきは、格好良かったぜ」

 すばやく肩、背中に手を回しながらささやきかける。その口ぶりから察するに、先刻の黒船屋での出来事を見ていたらしい。

「オレ、あんたが気に入っちゃった」

 言いながら男はアンジェラの唇に自分の唇を近づけた。あざけるような(わら)いがアンジェラの口元に浮かぶ。だが彼女はあらがう様子もなく、あくまでも無関心なまなざしを男に注いでいた。いや、彼女が見ていたのは、目の前の男ではなかった。

 首尾よく男がアンジェラに触れたとき、足音ひとつたてずに霧の中から現れた男が彼の真後ろに立っていた。

 かなり背の高い男である。

 間を置かず、さらにひとりの男がのっそりと出てきてその男の斜め後ろについた。


「マーンリー、おふざけはおしまいだ……」


 何とか情熱的なキスをかわそうと苦戦する男は、背の高い男の一言で凍りついたようにすべての動きを止めた。アンジェラに回していた手の力が抜ける。立っているのが不思議なくらいの脱力ぶりだった。

 男から離れるとアンジェラは唾を吐いた。新手のふたりに目を向ける。

 背の高い男は、危険、だ。一瞥してそう判断してもうひとりを見る──驚きに目をみはり、まばたきを二、三回して息をつく。人違いだ。

 ふとその男がベルトに酒とおぼしき瓶をさしているのに目を留め、アンジェラは静かに近づいた。男は、背の高い男とマーンリーのやりとりを集中して見ている。

「なぜおれがここにいるかわかるか?」

 と背の高い男。

「ボ、ボス……」

「わかっているなら、やるべきことをやれ」

「……っ!」

 マーンリーの顔に恐怖の色がありありと出ていた。ごくり、と喉を鳴らし、息をのむ。背の高い男は腕組みして薄笑いを浮かべている。

 アンジェラは男のベルトから瓶を抜き取る。

「口なおしだ……なんだ、軽いな」

 中身をすべて口に含んだ。

「あ〜っ! オレのソーマ・アグニ! さっ最後のひとくち〜っっ」

 男の絶叫と同時に銃声。マーンリーがゼロ・ストリートを朱に染めて転がる。

「……トッド」

 背の高い男が振り向いたのは、アンジェラが(トッド)の胸ぐらをひっつかんで唇を重ねていたときだった。

「はんぶん、返したぞ」

 アンジェラは手の甲で口の端をしたたる酒をぬぐった。濡れた紅唇が妙にあざやかだ。

「ばァろォ、こりゃ飲むんじゃなくてなめる酒でぇ」

 ぶしゃぶしゃとトッドがつぶやく中で男の鋭い視線を受け、アンジェラは警戒を隠そうともしないで男を見つめ返した。瞳の色は彼女のダークブルーよりももっと暗い夜の闇だ。

「美人の口うつしでソーマ・アグニとは、トッド、冥利に尽きることだな」

 アンジェラから目をそらさずに男は言った。そのまま近づいてくる。アンジェラは動けない。視線を外すこともできない。

「おれもソーマの恩恵にあずかるとしよう」

 自然な動作で、男は彼女の唇をふさいだ。

 なぜそれをゆるしたのかはアンジェラにもわからない。

 彼女は自分の足で立っていられなくなった。がっくりと腰から下に脱力感がある。くちづけの中で、男が彼女の体を支えた。

「……ソーマ・アグニが、まわってきたな」

 男のつぶやきで、アンジェラは自分が耳慣れないその酒に酔ったことを悟った。

 頭の中まで霧がかかったようなぼんやりとした感覚も、上気する頬も激しい鼓動も、すべては酒のせいなのだ。ソーマ・アグニ、まさに火神酒(アグニのソーマ)である。

 男の肩を借りてゼロ・ストリートを歩いた、それがその夜のアンジェラの記憶の最後だった。




(どうして、照明をつけたまま眠ったりしたのだろう)

 心地良いまどろみの中で彼女は考える。

 まだ目は開けていない状態ではあるが、まぶたを通して明るさを感じている。


(室内に、誰かいる!)

 次いで感じた人の気配に、とっさに起き上がろうとする衝動をこらえる。依然として目を閉じたまま寝返りをうつ。うちながらそっと枕の下に手を差し入れる──何もない!


(自分の寝室ではないのだ!)

 愕然としながらも再び寝返りをうった。


「……ん……」

 無意識のような動作でシーツを引き上げる。と、今度はシーツの中に手を入れてさぐる。

 バトルスーツ、プラチナ繊維、薄絹……昨夜身につけていた衣装はそのまま。数本のチェーンベルトも指先に触れることができた。だが思ったとおり、レイピアの感触はそこにはなかった。

 それから、アンジェラは静かに目を開けた。深緑のビロードを使った天蓋がまず目に入った。これはもう、完璧に彼女のベッドではない。

 ゆっくりと身を起こす。ベッドから少し離れたソファーに、グレイのマントが広げられていた。その上に、彼女のレイピア。そしてその手前の椅子に、こちらに背を向けて座るこの部屋の主の姿があった。

 彼女のそれよりもはるかに色濃い黒髪──かすかに藍色がかっている──は長く、首のあたりから編まれている。昨夜の背の高い男だ。

 ベッドから出る。足は裸足……重力靴(ブーツ)はいったいどこなのか。脱いだ覚えがないということは、マントやレイピア同様に誰かが──たぶん、この男が──やったのだ。

 男は腕を組んで目を(つむ)っていた。アンジェラはその正面にまわりこむ。男はまだ目を閉じたまま。その足元に彼女の重力靴がそろえて置かれていた。それを取るべく身をかがめた彼女の髪がふわりと男に触れる。

 男が目を開く。

 彼女が重力靴を履き、レイピアを手に取る様子を見ながら男は静かに言った。

「おまえは、どうやらソーマ・アグニと相性がいいようだな」

「……?」

 無言でアンジェラは男を見た。その間にもその手はチェーンベルトのフックにレイピアをひっかけている。

「トッドは二日酔いでまだ寝ている」

「トッド?」

「おまえにソーマを飲まされた男」

「ああ、昨夜のキノコ頭か……」

 きちんと切りそろえられた淡い色合いの金髪を思い出し、アンジェラは顔をくもらせた。

「どうした」

 男が薄笑いを浮かべる。

 アンジェラは不思議なものを見るように男を正面から見つめた。

「おまえは、何者だ?」

 玲瓏としたアルトが厳しく問いかける。男は真顔にもどり、ぽそりと言った。

「仮にも女が、一夜を共にした男に訊くことではないな」

「そのような戯言は、いらない!」

 電光石火、アンジェラはレイピアを抜き放つ。が、一通り刀身をながめただけで、鞘におさめた。

「わたしのバトルスーツは解除されてはいない。仮にわたしがおまえと共に眠ったのだとしても、おかしな言い方をするな」

「バトルスーツ、か……」

 再び男が薄く笑う。

「では、おまえは誰だ」

「名告る名など、ない。どうしてもというならば、アンジェラと呼べ」

 男から視線をそらせ、力なくアンジェラは言った。

(スペース・)(マーシナリィ)か?」

「ちがう……単なるさすらいびとさ。おまえは?」

 薄笑いを普通の笑顔に変えて男は答えた。

「人はユアンと呼ぶ。宇宙自由貿易をやっている」

「宇宙貿易商? 海賊ではないか」

 アンジェラは冷ややかに言った。

「そう呼ぶ奴も、いる」

 ユアンは冷静だ。

「ここは、どこだ? ホテルか、おまえの家か」

「おれの宇宙船だ」

「宇宙港か」

「いや、ガウェンドラの衛星軌道」

 さびれた鉱業の星ガウェンドラ。昨夜、彼女はその星に降りたのだ。

 衛星軌道と聞いてアンジェラはがっくりとソファーに座り込んだ。何という不覚。彼女ともあろうものが、酔っていたとはいえ……。

「どうした?」

 男はアンジェラの反応を楽しんでいるように見えた。それと知るや、感情の波をおさえる。努力する必要などない。冷血女、氷の魔女……何度言われてきただろう。

「ガウェンドラに」

「降りたいならばトッドに言え」

 アンジェラはあらためて警戒のまなざしを男に向ける。何なのだ、この男は。彼女には理解できないものだ。

「ドアを出て左、三つめの部屋だ。ベッドに引きこまれんように気をつけることだな」

「ああ、そうすることにしよう」

 アンジェラはユアンの船室を出る。


「……モーガン」


『イエス、マスター』

 ユアンの呼びかけにコンピュータは応えた。モーガンは彼の宇宙船〈モルガーナ〉の人工知能である。

「あれは、何者だ」

 やわらかな女声でモーガンはささやくように言った。

『進化過程学的見地ではヒト科人類。直立歩行型で五指族に属します。面体学的にはハロー系種、遺伝学的にタトゥーラ人です、純粋な。加えてマスターの審美眼では美人、に分類されるでしょう』

 モーガンの冗談をさらりと流して──つまりは無視して──ユアンは訊いていた。

「純粋なタトゥーラ人だと? ありえるのか、そんなことが」

『一般繁殖的確率100%、しかしこれは純血主義の場合。それ以外での確率は10のマイナス12乗%』

「それでは、あの女はいったい何だ」

 一瞬、モーガンは言いよどむ。天文学的数値としかいいようのない量で蓄積されたデータを検索していたのだ。

『共和国移民ファイル、タトゥーラ=サーベクの項に記述なし。その他、タトゥーラ系混血の項にも該当者なし。人名検索、該当者は特定不可能。帝国連ネット・バンクにファイル・ノット・ファウンド。未知、ですマスター』

「タトゥーラ人の寿命は?」

『標準年齢にしておよそ八十年』

「あれは、クローンか」

『生粋のタトゥーラ人ならば、クローンとして存在しようとはしないでしょう』

 そう言ってモーガンはため息ともとれるP音を吐いた。


 惑星タトゥーラの悲劇は【ミネストロプァの誓い】として共和国宇宙史に記されている。いまから百五十年以上も昔のことだ。


 宿敵サーベクの攻撃でタトゥーラは瞬時にしてマグマの星、文明以前の原始惑星と化してしまったのだ。

 かろうじて脱出したタトゥーラ人は男女あわせて三百人たらず。

 九割以上の民と母なる大地、聖なるエクメーネを失った女王エグゼ・シオンは報復としてその生命を賭してサーベク星を消滅させた。

 住むべき星をなくしたタトゥーラ人とサーベク人は共に生きることを約束し、サーベクの王ミネストロプァが両星人間の恒久平和を誓って長年の星間戦争を終わらせたのだ。タトゥーラ人の混血は平和共存の証である。


『……トッドが発進しました。追尾しますか?』


 ぼんやりとタトゥーラにまつわる概略を思い出していたユアンはモーガンの声ではっとする。

「いや、必要ない。行き先は知れている。キサガクだ」

 さびれた鉱業惑星の、錆ついた宇宙港の街キサガク。

 まっとうな人間ならば、降りようともしないであろう街。そこに居つくのは、皆すねに傷ある何とやら、だ。

 しかし、ユアンはアンジェラに己と同じにおいを感じていない。

 凍てつかんばかりのまなざし、どこか人生を投げやったような無関心さ──その証拠に彼女はマーンリーにあらがわなかった。たとえ、その後で奴を()るつもりだったとしても──標準年齢にしてもまだ二十代にしか見えない女だというのに……。

 おそらく、彼女とユアンとでは生まれも育ちも、まったく違うはずだ。しかしユアンは女を自分と同類であると考えた。身分など、比べようもない女だ。だが彼にとってそんなものは何でもない。そこにいかほどの価値があるというのか。

 あの女と(おれ)は似ているのだ、と本能が知らせていた。それが同性であれば、ユアンは相手を殺していただろう。

 しかしあれは、アンジェラは、異性だ。

「当分のたいくつしのぎにはなるな」

 ひとりごちるとユアンはうっすらと笑いを浮かべた。




to be continued……














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