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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

とある戦争孤児物語3

作者: きみとのあいだ

俺の最初の記憶‥

茅葺き家屋の木の香り。

布団のホコリとカビが混じった少し鼻にツンと来る匂い。

山奥で唯一の光、ろうそく。

印刷された油と紙の匂い。

優しく読み聞かせる母の声‥



1940年

誰も立ち入らない山奥の一軒家

目が覚めるとママの布団は綺麗に片付けられていた。


「ママ‥ 今日も朝まで一緒に居てくれなかったんだ‥」


寂しい気持ちに鳴りながらも

ママが読み聞かせてくれる英字のコミック雑誌を手にとり真ん中辺りを読む。


このコミックってのは英語を理解出来ない俺でも、絵だけで充分に楽しませてくれる。



「いけっ! やっつけろ!」


俺はコミック雑誌を開いたまま床に置く。



「俺が正義の味方ジャスティスマン」


「俺が来たからにはもう安心。悪を成敗してやる。」


「えいっ やあ とぅ」


俺は体が動くままパンチとキックを繰り出す。


「ぐわわわ〜」



「フッ参ったか、このくらいで許してやろう」


「正義は必ず勝つのだフハハハ」


右手をグーに左手を腰に当てたジャスティスポーズで決める。


一人芝居を終えると床に置いたコミック雑誌を再び手にとり読む。


「くぅー やっぱジャスティスマンかっこいいなー」


「強いし優しいし僕もこんなふうになりたいなー」


雑誌の中には他のコミックもあるが、特にジャスティスマンが好きだった。


ママもそれがわかっているのかいつもジャスティスマンを日本語で読み聞かせてくれる。


悪と戦い、やっつける所は毎回同じセリフなので、そこだけはマネが出来た。



コミックを読み終えるとお腹が空いたので、ママが台所に置いて行ってくれた食料を食べようとした。


今週は乾パンが4缶、サバの水煮等の缶詰7缶、ほどがあった。


俺は障子を開け縁側から裸足で外に出る。


湿った土の冷たくまとわりつく感触はなかなか心地の良いものだった。


庭の畑にあるトマトをそのまま齧り、その水分を口に含み乾パンを食べる。


他の食べ物をほとんど知らない俺にとっては美味しいと感じるものだった。


ママが出掛ける前に手入れをしたのだろう、畑は綺麗に整えられていた。


俺がママから言われた仕事は畑の野菜に毎日水をあげる事だけ。

畑は毎週ママが手入れをして、どの季節でも何かしらの野菜が食べられるようになっていた。

今は夏、トマト、きゅうり等の野菜が植えられている。


他にすることもなかったため、毎日、日が暮れるまで、ジャスティスマンのように強くなるためトレーニングをしていた。


ジャスティスマンのようなマッハを超えるパンチ。

木を折るほどの威力のキック。

大人になるまでには出来るだろうと信じ、毎日続けていた。


一日、二日、三日、四日、五日、六日


毎日一人でトレーニングに励んだ。


そして七日、一週間がたった。


この日もいつものようにトレーニングをして夕方頃家に帰ると一つの郵便が届けられていた。


英語で書かれ俺には読めないが中身はわかる。

コミック雑誌だ。


俺は封筒を勢いよく破るとジャスティスマンが表紙のコミック雑誌が出てきた。


俺は読みたい気持ちをグッと我慢して、玄関でコミック雑誌を抱えママを待つ。


数時間後ママが帰ってきた。


「ママ! おかえり!!」


「とら、ただいま。」


ママは俺の頭をクシャッとかき乱すと満面の笑みでホッペにキスした。


「ママ! ママ! みて! ジャスティスマンみたいにパンチが出来るようになったよ」


拙いパンチを見せる俺に

ママは幸せそうな顔で


「はははは! まだまだだねぇーとら、ジャスティスマンのパンチは目に見えないほど速いぞー」


俺はムッとして


「俺だって大人になったらもっとパンチ速くなるもん」


切ない表情を一瞬ママはしたように見え

「そうだね‥ でも、とらが大人になる頃にはパンチなんて必要のない世界になるといいね」

ぼそっとママが言う


「? どうしたの?」


また、ニコッとして

「何でもない! ほら!ちゃんと体拭いて寝る準備しなさい!」


「えーだって寝ちゃうとママに会えなくなるんだもん」


「駄目よ!寝なきゃ! お布団に入らないんだったらジャスティスマン読んであげないよ」


「うー 分かったよ! でも、今日は寝ないからね!」



ろうそく一本の光の中で優しいママの声がする。

外にはたくさんの生き物の声があるはずなのにママの声しか聞こえない。

「正義の味方ジャスティスマン」


「俺が来たからにはもう安心。悪を成敗してやる。」


「えいっ やあ とぅ」


「ぐわわわ〜」



「フッ参ったか、このくらいで許してやろう」


「正義は必ず勝つのだフハハハ」


ママが読み終えると周りが静寂に包まれた。



今日はママが出て行くまで寝ないって言った決心とは裏腹に

ママのぬくもりの安心感で

腕の中一人の夜より早く眠りに落ちてしまった。


こうして数週間、数カ月、数年が過ぎていった。


生活は相変わらずだが、変わったものがある。


俺のジャスティスパンチは3メートル先まで一気にパンチが届き、キックは木の表皮が少し削れるくらいまでになった。



ある日、そしていつものとおりにトレーニングしている場所に行くと初めてママ以外の人、男がいた。


俺はどうしていいのか分からなかったけど、いつものとおりにトレーニングを初めると


石が手に当たった。


俺が振り向くと、男は酷く怯えた様子で


「金色の髪、大きい体‥が、外人 よくも日本を‥」


俺は理解が出来なかった。


男は石を投げ続けて来るので男の方に向かおうとすると


「いやー、すみませんね 隣人の挨拶がまだでしたね‥」


ママが帰ってきた。


「この先に住んでる者です、どうぞよろしくお願いします」

ママは俺の頭も抑えながら深々とお辞儀をすると、

男は疑り深い目をしながら帰っていった。


今日はいつもより早い時間にママが家にいる。


けど、その嬉しさ以上に不安などがあったの。


さっきの男の言ってたことが耳から離れない。

「ねぇ、俺は違う人間なの?」


ママはじっと黙ると

「みんな同じ人間さ でも、特に日本は血縁とか重視して排他的だから 」

俺にはよくわからなかったが

あの男はママと同じ黒髪、俺だけ金髪…

俺が他の人と少しだけ違うってことだけは理解できた



今日のジャスティスマンの最終回だった。

でも内容は覚えていない。


今日は色んなことがあったからかもしれないし、

ジャスティスマンがいつもと違うセリフを言ってたからかもしれない。


覚えているのはいつも優しく落ち着けるママの声が少し震え、何回も言葉につっかえたこと。


読み終えた後すぐ眠れなかったこと

夏の生き物がうるさいくらい騒がしかったこと。





朝起きるといつものようにママはいなかった。

食料もいつもどおりだったし、畑の世話もいつもどおり。


俺は少し安心し、いつもどおりトレーニングをした。


いつものメニューを終え家に帰ると、縁側に次は一週間先のはずの封筒が置かれていた。


俺は胸騒ぎがしつつ封筒をゆっくり破くと


中から今まで、見たことのない雑誌が出てきた。


表紙にマジックで殴り書きで英語は読めないが一部だけカタカナで書かれていた。






「ニゲロ」



するとガタッと物音がした

玄関から音が聞こえたようだだった


俺は泥棒か盗賊かと思い、


頭の中で

「俺は正義の味方とら 悪を成敗してやる」

ととなえた。


それに、俺のパンチとキックがあれば負ける気は全くしなかった。


いざ、悪を成敗しようと出ていこうとすると


「この家に悪魔の子が住んでんだよな」



俺の体に衝撃が走り。

全身が動かなくなった。


俺が悪魔の子? 俺は正義の味方じゃなくて悪だったのか?


チラッと見えた相手の姿は警察の姿二人組だった。


「ホントにこんなど田舎に悪魔が住んでんのか?」


「バカヤロー 声出すんじゃねぇ 整備された畑や村人の証言があるんだ。悪魔が逃げるだろうが」


俺は縁側から逃げた。


幸運にも見つかることなく逃げられたがそれ以上の衝撃で膝が震え

木陰から動けなくなった。


俺は何者なのか、正義とは悪とは何なのか。


ママはどうなったのか‥


俺は動けなくなった木陰から警察官が出て行くのを見守り、

しばらく家を見張ることにした。


しかし、一週間経っても郵便も来なければママも帰って来ない。



俺は全てを捨て正義とは何か探す旅に出た。



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