二日目
二日目
俺はいつものように登校して、自分の席に座った。
両耳にイヤホンをして、《RED TALE》を爆音で流す。これなら周りの声も聞こえない。
そして途中まで読んでいた「閃光のシャルナーク」を開き、読書を再開した。
俺が普段、学校に登校する時間は始業時間の三十分前。この時間帯なら、あまり人はいない。
いるのは学年会の仕事がある委員長や日直くらいだ。
そのおかげで俺はしばらくの間、読書に耽ることができるのだ。
……教室が騒がしくなってきた。
イヤホンから音漏れすると迷惑になるので、音を下げる。
すると、ひそひそ話が聞こえてきた。
「ねえ、あのオタクさ、また漫画よんですよ?」
漫画じゃないですよ、ラノベですよ。
「ねー。友達いないのかな? あ、いないのかww」
いるよ! ……一人ね。
「つーか、話しかけるとキョドるんだよ、アイツ」
「そうそう。それがおもしろくてさー!」
面白がるな!
俺を話題に盛り上がるな!
イヤホンの音量を上げようと思うと、また一人教師に入ってきた。
ガラガラッ。
はあ、今度は誰がーーー。
「おはよーっ!」
ああ、憂鬱だ。
「犬塚さんっ! おはよう!」
「おっはー!」
「おはよう、犬塚!」
入ってきたのは、犬塚狛子。
アレキサンダーの飼い主だ。
犬塚狛子が教室に入ってきて、大半がそちらに視線をやった。
俺に興味がなくなったみたいに。
そして、上位カーストの連中が犬塚狛子の席の周りに集まっていく。
見ての通り、犬塚狛子はスクールカースト最上位の人間だ。
高校三年生とは思えない、ゆるふわフェイスで同級生から下級生、はたまた大学生は中学生からも告白される。
たまに小学生や社会人のおっさんからも告白される。そこまでいくと犯罪臭がするが、話が逸れるから置いておこう。
とにかく、それくらい犬塚狛子はモテるのだ。
なのに、一度も人と付き合ったことがないらしい。
レズなのでは? と噂され、枯れ専? デブ専? とまで噂される。
まあ結局、“彼女のお気に召す男がいない”のだろう。
という結論に落ち着くのだ。
また騒がしくなりそうだな、と思っていると先生がやってきた。
「オラ、お前らー。ホームルームするから座れー」
助かった……。
俺はイヤホンを取って、他の同級生達も自分の席に座っていく。
「よーしっ! 今日は席替えをするぞーっ!」
「「「やったー!!!」」」
えー……。
何故、みんながこんなに盛り上がってるのかがわからない。
席替えだぞ? 話したことないやつと隣になったらどうするんだ。
……いや、俺しかいないか。そんな奴。
「くじを作ったから、この中から出席番号順で引いてけー!」
順番で先生が作ったくじを引いていく。
最初のやつは廊下側の一番前だった。
可哀想に。
「うあー!」とか反応してるけど、席替えなんかするからそういう思いになるんだ。
「次、犬塚ー!」
「はーい!」
おっ、次は犬塚狛子か。
犬塚狛子は窓側から二列目の一番後ろだった。
いいな。顔がいいやつは運まで持ってるのか?
「次、影野ー」
そんな感じで順番が俺まで回ってきた。
「うわ、オタクくんだ」
「いやだなー、私あいつの隣にだけはなりたくない」
「俺だってそうだよ」
「アイツの隣になりたい奴なんて誰もいないだろ」
「確かに〜」と笑うカースト上位グループ。
ふん。笑いたければ笑え。
さあ、ガチャ運の神よ!
俺に星六神席を!
ばっ!
そして、引かれた紙に書かれていた席はーーー。
「おっ、運がいいなー」
俺の席は、窓側の一番後ろ。
つまり、犬塚狛子の隣だった。
嘘、だろ?
まずいぞ。犬塚狛子の近くにいると無駄に目立ってしまう。
どうにかして対策を考えないと。
そう考えているうちにも席決めは進み、ついに移動時間になってしまった。
結局、起死回生の一手は思い浮かばず、机と椅子を持って移動してきた。
いや、大丈夫なはずだ。
俺は昨日、マスクをしていたしーーーー。
「あーっ! 君、昨日の!」
……速攻でバレた。
「……ちっ」
「え? 舌打ちした?」
「してない」
「したでしょー!」
「してないよ」
「しーたーでーしょー!」
何故、こんな事で言い合ってるんだろう。
「こら、犬塚! 影野! 煩いぞ!」
ほら、先生からお叱りが飛んで来た。
「はーい、すみませーん」
「す、すみません」
くそっ、お前のせいで怒られたじゃないか!
「えへへ。怒られちゃったね」
そんなに可愛く笑うな。照れるだろ。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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