一日目
諸事情がありまして、再投稿しました。
すみません。
俺が犬塚狛子と出逢ったのは、それは突然の事だった。
俺は日直の仕事でいつもより遅めに学校に残り、下校していた。
時刻は夕方で、あたりはオレンジ色になっている。
両耳にイヤホンを付けて歩いている。
最近のお気に入りは《RED TALE》というロックバンドだ。
「あぶなーい!」
一言で言えばこのバンド、死ぬほどかっこいい。
思春期の俺には突き刺さった。
「どいてどいて〜っ!」
このバンドはすでに解散しているんだけど、それでも今なお残る名曲は俺に語りかけてくる。
「あっ、やばい! お兄さん!」
その時だ。さっきから、悲鳴は聞こえていたんだが、特に気にしてなかった。
直感的にお兄さん、とは俺だと分かった。
後ろを見ると、信じられない光景が飛び込んできた。
「ん?」
「その子、捕まえて〜っ!」
わんっ! とゴールデンレトリバーが飛んで来た。
なんで?
「なんでー!?」
ぐはっ、とそこで俺は意識を失った。
目を覚ますとゴールデンレトリバーだった。
いや、俺がゴールデンレトリバーだったわけじゃない。
俺の目の前がゴールデンレトリバーだったんだ。
うん? 何を言ってるんだ、俺は。
「わん」
「……わん」
「くぅ〜ん」
「やめい」
ぺろぺろと顔を舐めてくる。
可愛いんだけどな、可愛いんだけどな!?
正直、まだ意識を取り戻してばかりだから、具合が悪い。
それにどのくらい気を失っていたのかもわからない。
「ああー! こら、アレキサンダー! めっ! 食べちゃだめー!」
いや、食べられてないです。
え? 食べないよね?
飼い主と思われる女性がやっと来て、リードを取って俺から話してくれた。これで俺も起き上がれる。
ゴールデンレトリバー、名前はアレキサンダー?の首には首輪とリードが付いているから、散歩中に手を離してしまったんだろう。
「もう! 駄目じゃない、アレキサンダー!」
「くぅ〜ん……」
「は、反省してるの?」
「わん!」
「よ、よーしっよしよしっ! それじゃあ許してあげるわ!」
いや、許すな許すな。
一応俺、被害受けてますからね!
気、失ってますからね!
と、そこまで言って気がついた。
この飼い主の女性に見覚えがあることを。
ふわふわのミディアムヘアー。
犬っぽいとも童顔とも言える、整った顔。
身長は150cmから160cm前後と短めだが、モデルをやっていると信じてしまうほどスタイルが良い。
制服を着ていないから気づかなかったが、この女は俺と同じクラスの美少女。犬塚狛子だ。
「あれ? 君、どこかで見た気が……。それにウチの制服だし……」
どうやら彼女も心当たりがあるようだ。
いや、流石に同級生に名前を覚えてもらえてないのは傷付くけどな。
「……人違イデスヨ」
「そう、ですか?」
いや、でも、うーん? と悩んでいる犬塚狛子。
だが悪いな。俺はなるべく目立ちたくないんだ。
君と関わると嫌でも目立ってしまう。
だからここは知らない人のふりをして、やり過ごそう。
「オーット! 今日ハ面白イテレビガアルンダッター! ソレデハ、僕ハコレデ!」
だいぶ棒読みになったが、これで逃げ出せる。
返事は聞かずに全力ダッシュ!
家に向かって出発する。
後ろから犬塚狛子の俺を呼び止める声と、アレキサンダーのわんっ、という鳴き声が聞こえたが、聞こえないふりをして進んだ。
じゃあな。
もう関わることはないだろう。
……そう思っていた時期が俺にもありました。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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