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3-16.再度王城へ

すみません、エミルの名前を間違っておりました。

現在は修正しております。たいへん申し訳ありませんでした。誤字修正を送ってくださってありがとうございました。

 昨日は美術館に行ってから、名産だというガラス細工を見て回った。


 今日はお寝坊してしまったから、動けるのは午後からになる。わたしはちゃんと起きたのだけど、ノアが離してくれなくて二度寝を貪る事になってしまった。

 旅行の疲れが出たのだろうかと心配したけれど、それは杞憂だったようでほっとした。


 のんびりするのも、いいかもしれない。

 夕星に溺れながらそんな事を思うくらいに、幸せな朝だった。



 ブランチを食べに宿の一階にあるカフェに行くと、フロントで従業員に話しかけられた。

 預かったという手紙を受け取って、カフェでそれを確認すると、ブルーム商会の支店長からの手紙だった。

 今日の昼過ぎに本店からの荷物が届く予定だというお知らせだった。きっとエマさんからの手紙も預かってくれているのだろう。

 午後からは図書館に行く予定だったけれど、王城に向かう事になりそうだ。


 ***


 やってきた支店の裏口は皆が忙しそうに動いていた。

 声を掛けるのも憚られる程だったのだけど、わたし達の姿を見つけた一人が駆け寄ってきてくれる。一昨日、手紙を預けた──ケニーさんだ。


「アインハルト様! アリシア様! お疲れ様です!」


 疲れた様子もあるけれど、その表情は明るい。声も元気そうで安心したけれど、なかなかのハードな運送になってしまったのではないだろうか。


「お疲れ様です、ケニーさん」

「お手紙を預かってきましたよ」

「ありがとうございます」


 受け取った手紙には『リガスへ』『エマより』と書かれている。

 前に預かったものより、しっかりとした文字に見えるのは気のせいだろうか。


「ケニーさん、エマさんに会ったか?」

「はい、会いましたよ! お手紙を渡した時は泣いてましたけど、これを受け取って帰る時には明るく笑ってくれてました」


 ノアが問うと、ケニーさんはびっと音がしそうなくらいに勢いよく姿勢を正す。ケニーさんはノアに憧れているからか、その顔は一気に真っ赤になっていく。


「良かった。ケニーさんも疲れただろう。お疲れさま」

「いえいえ! 事故のないようにってうちの支店長も、本店ではクラウス様も気に掛けて下さったんで大丈夫ですよ。いつもより人数を増やしての運送だったので、そんなに疲れてないんです」


 そう言ってはくれるけど、エストラーダとルガリザンドの往復をこの短時間でするのだから大変だったと思う。何でもないと言ってくれるケニーさんに甘えて、ただ頷いた。


「それとクラウス様から伝言です。手紙でも何でも届けたいものがあったら遠慮しないで支店に託すように、って」

「兄さんが……。そう、ありがとう」


 本来、運送の日は決まっているはずだ。

 それを無視して構わないと言ってくれているのだ。そんな兄の優しさに触れて、胸の奥が温かくなる。ここは素直に甘えよう。


「ケニーさん達の負担も増やす事になってしまうが……すまないな」

「会長がボーナスを出してくれるっていうので大丈夫です! まぁそれとは別に、エストラーダの染色タイルやガラス細工の仕入れを増やしたいっていうのも、会長達の中にはあるみたいなので。本当に気にしなくて大丈夫そうですよ」


 ケニーさんの明るい声に笑みが漏れる。

 沢山の人に支えられている事を改めて実感しながら、わたし達は支店を離れ、王城へと向かう事にした。



 ついこないだ訪れたばかりの王城で、門を守る兵士もわたし達の事を覚えているようだった。マスターの出してくれた入城許可証のおかげで中に入る事も出来たし、案内してくれる侍女も来てくれるけれど、兵士達からの視線は不審者を見るものだ。


 ルガリザンドの王城では向けられる事のない視線に少し落ち着かない気持ちになってしまうけれど、それも仕方のない事だと分かっている。それでも──


「騎士のノアがああいう視線を向けられるのって、何だか不思議ね」

「はは、確かにな。髪をきっちり上げて騎士服姿で来ていたら、また対応も多少は違うかもな」

「今の装いだって怪しいわけではないのにね」


 今日もノアは髪を緩く上げ、顔を露わにしている。眼鏡は掛けているけれど、それだけじゃ美貌は隠せていない。


「肩書が見える装いじゃないからな、仕方ないさ。でもアリシアはこの俺も好きだと言ってくれるだろ?」

「それはもちろん」

「じゃあ別にいいさ。誰に不審者扱いされたって、お前が好きって言ってくれるならいいんだ」


 優しい声に鼓動が跳ねる。顔に熱が集う事を自覚しながら、ただ頷く事しか出来なかった。


「あれ、アリシア?」


 掛けられた声は、聞き覚えのあるものだった。

 隣に立つノアが舌打ちをしたのが聞こえる。それに苦笑しながら声のする方へ顔を向けると、そこにはエミルが居た。文官の制服姿でにこにこと手を振っている。

 エミルの隣には貫禄のある男性が居て、侍女がすっと頭を下げた事から位が高い事が分かった。


「エミル、こちらは?」

「僕の幼馴染で、アリシア・ブルーム嬢……ああいや、いまはアインハルト夫人です。こちらはご主人のジョエル・アインハルト殿。アインハルト殿はルガリザンドで騎士をされているそうですよ」


 ノアの機嫌が下がっていくのが分かる。ちらりとそちらを窺うと貼り付けたような笑みを浮かべていて、わたしの背筋を冷たいものが走った。


 わたし達は胸に手をあて、礼をする。


「アインハルト殿、アリシア、こちらは僕の上司。宰相の職についてらっしゃる、スカビオサ卿です」

「お会い出来て光栄です」


 そう応えるノアの声は騎士姿の時のように、固いものだった。


「リガス殿下の友人という二人だな。この国には観光で来たと聞いている。楽しんでいってくれたまえ」

「ありがとうございます」


 そんなやりとりだけをして、スカビオサ卿は立ち去っていく。

 それなのにエミルはこの場に留まっていて、何か用事でもあるのだろうかと首を傾げてしまった。


「これからリガス殿下に会うんだろ? 応接室?」


 その問いには案内してくれている侍女が頷いた。

 エミルは笑みを浮かべたまま、任せてくれとばかりに自分の胸をドンと叩いた。


「俺が案内するから、君は仕事に戻っていいよ」

「かしこまりました」

「え? エミルもお仕事中でしょう?」

「うん。でも大丈夫だから」


 引いてくれる様子はなく、侍女がいなくなってしまった今は、応接室までエミルを頼るしかない。


 ちらと隣のノアを窺うも、変わらず笑みを浮かべているけれど、その笑みはひどく冷たくて怖いほどだった。


 何だか胃が痛くなりそう。

 お腹に手を添えて、小さく溜息が漏れた。


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