9 立つ鳥は
「さて、じゃあさっさと行くわよ」
「は、はい…!」
ベッドから出て、私の足で立ちます。
…体調良くしてくれたというのは、本当のことのようです。
ぜんぜん疲れません。(てんてん)
「…あっと、とと…」
ふらっと、よろけかけました。
あ、歩くのってバランスがいりますね…!
「ちょ、大丈夫なの!?」
「は、はい…あまり歩くのに慣れてなくて…でも、なんとか…します」
「無理するんじゃないわよ。ほら、捕まりなさい?」
リティが近くで体を支えてくれました。
そのまま、引っ張るようにベッドから扉へ歩きます。
それでも、まだまだ疲れません。
「んー。平行感覚を強化させましょうか…でも歩けるなら自分で感覚を掴んだ方がいいかしら…」
リティが、たぶん私の体について考えてるみたいです。
お薬も使えるリティなら、詳しいことを知ってるのでしょうか。
そういえば、一つ気になることができました。
「あ、あの、リティ…私、全然疲れないのだけど…リティは私に、どんなことをしてくれたの?」
「え?…あぁ、そうね。その話はそのうちね。それよりも…」
リティの透き通るような、それでいてどこまでも深い緑の瞳が、私を見つめます。
なんだかどこまでも見通されるているような、恥ずかしさがあります。
「後腐れもないようにするわよ…。」
「ふわっ…!」
身体をなにかがくぐるような、風とも波とも言いにくい感触がしました。
「複製、全部位」
私がさっきまで寝ていたベッドに、光が集まります。
それから、ものの数秒で光が人の形をとりました。
「ねぇ、リティ。これって…?」
「あなたの身代わりってところね。今から飛び出して、追ってこられても困るでしょう?」
みがわり。
よく見ると、その人は息をしてもいなければ、ちっとも動く気配もありません。
「そうね。あなたの余ってる服はあるかしら?」
「あ…。たぶん、そこに入ってると思う」
数少ない家具の机。その横に小さな籠が置いてあります。
何回か、私の来ている服を入れてる様子を見た気がします。
リティは、私の手を離して籠の中身を確認しています。
途中、「やっぱり」とか「うわー」とか聞こえましたけど、ダメでしたでしょうか。
「ここのこれ、使うわよ。持ってくなんて許さないからね」
有無を言わせないリティの強気な態度は今まで見たことないけど、とても温かさがあると思います。