6 使用人の毒は
使用人が用意した毒は、「夢キノコの幻」と「毒菫の眠り」といった。
「夢キノコの幻」は、あるキノコのもたらす症状、あるいはキノコそのもののことだ。
このキノコには、生物を死に至らしめるような毒は無い。
そのかわり、少量の胞子でも強い幻覚を見せるという特徴がある。
食べたとしても、獣も人もよく注意しなければ気づくことすらできない。
このキノコの見せる幻覚の恐ろしさとは、特に何もなかったという認識を刷り込むことにある。
命の危険に繋がるような異常であっても幻の中に隠さる。
そして、死んだことにすら気付けないという。
「毒菫の眠り」は、即効性、持続性に優れた強力な麻酔のことだ。
毒菫と呼ばれる花、特に鮮やかな紫色をしたその花弁からは、上質な麻酔薬を抽出できる。
広く、医療や民間の知恵としても用いられる薬だが、その場合、必ず抽出した成分を薄めた液体として使わなければならない。
生物が花弁そのものを取り込んだ場合、麻酔が過剰に作用する。
五感や思考が断ち切られるだけでなく、無意識で動く身体の機能すらも止まりかねない。
使用人は、「少女の安らかな最期」を望んだ。
二つの毒は、痛みや苦しみから逃れるものでもある。
幻覚も麻酔も、唯一の救いとなり得る。