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4 父親の毒は
少女の父親が用意した毒は、「魔力放出剤」と「バジリスクの壊魂」といった。
「魔力放出剤」とは、一般には溢れ出したり暴走した魔力を外部へ霧散させる薬剤だ。
しかし、魔力の少ない者に過度に用いた場合、重度の魔力欠乏を引き起こす。
最悪の場合、魔力を生み出す機能そのものが破壊されることもある。
「バジリスクの壊魂」とは、名の通り魂を破壊する毒、ではない。
その昔、伝説として知られるバジリスクの毒は、どんな生命にとっても即座に絶命させるほどの効果があった。
高名な魔術師たちは、それらを人工的に再現することを試みた。
その結果、この毒は、身体ではなく、精神や魂といったものに作用するという仮説が立った。
研究は、完全再現とまではいかず、対象の生命力に魔力で直接ダメージを与えるという結論に至った。
しかし、完成した魔法薬は、霊体にも効果のある毒として認められることとなった。
少女の父親は、「少女の衰弱に近い死」を望んだ。
二つの毒は魔力を作用させているだけであり、効果が消えるとその魔力も消える。
魔力欠乏も生命力低下も、目立った外傷や薬の成分が残ることはない。